【真庭魚組】 爆音がした。 屋敷が燃えている。 轟轟と、煌煌と――燃えている。 赤と黒の対比が、美しいといえなくもない。 ただ、絵ではないのだ――それを見つめる六人の心には、何の感情も浮かんでいないのだから。 浮かんでいてはいけないのだから。 「題名をつけるなら?」 「……『炎上』」 「はん。上等だ」 「おや? そういえば何故爆発するのでございまする?」 「そういやそうだな。てめぇ使ったんじゃねえのか、忍法『音吐牢籠』」 「使ったわいな。んーでも狂わせただけやもん。自分で火でもつけたんやない」 「にしても爆発するのはおかしいですわよ。爆発物など置いてませんでしたわよ?」 「……海豹様」 「大変恐縮なので御座いますが、吾は爆弾を依頼主の目の届く所においてきただけで御座います…………まあ、触れば直ぐに点火できる種類をおいてきたがな……」 「確信犯やね……」 「吾は、殺す事が遺志だと思いまして御座います」 「意思――遺志? 誰のだよ」 「病で死んだ恋人の遺志で御座います…………態々手紙であの絵の事を伝えたのなら、自分の後を追って死んで欲しかったのだろうよ。その自己満足には吐き気がするが、その破壊思考には便乗してやらんことも無い……」 「あ、そう言えば捕まえていた男はどうしたんですの」 「適当な部屋に放り込んでいましたから、今ので死んだのではないでしょうか」 「可哀相に。態々今日に限って泥棒に入る事もねぇだろうによ」 「運が悪かったのでしょう、そのような物の事を態々気にする必要はございませんよ…………人間が一人減ったと思えば幸福ですらあるぞ……」 「まあ、どちらにしろ殺すつもりだったのでございまするから」 「海蛇――さっきの質問やけど」 「……ああ」 「婚約破棄の原因も、屋敷幽閉の理由も、娘の病にあって――絵を隠してたのも、あんなもの見せたくなかったっつだけで――あの親爺を恨んだ依頼主は、間違ってた言うことで、ええのん?」 「もういいんですのよ。気にしないでくださいな」 「…………。ま……そうする」 「逆叉、一つ聞いてもよろしいでございまするか」 「はい」 「鯱なら大丈夫って……鯱って感電しないのでございまするか?」 「いえ、すると思われます」 「ならばあの断言は一体」 「大事なのは、何を言うかではなく如何に言うかだと教わりました」 「教えました」 「アナタでございまするか儒艮」 「まあな。でも聞くだろ、ハッタリってぇ奴はよ」 「儒艮様もハッタリで泥棒を撃退していましたしね…………ハッタリと言うより気迫だがな……」 「そういえばあの泥棒、随分怯えていたように思われまするが……?」 「そんなに怖かったかぁ?」 「吾の様に体重の重たい物を上に乗せながら、全力で匍匐前進する姿はとても雄々しゅう御座いました…………何百年か後に既視感を感じそうな構図だがな……」 「ああ、今酷く納得しましたわ。一点に、儒艮だけならともかくも、海豹の体重まで掛かったから天井が破れたんですのね」 「海豹重たいもんな。うち思うんじゃけど、別にそこまで暗器仕込まんでええんちゃう」 「吾は未熟者ですから、此れぐらい仕込んで置かなければ気が済まないので御座います…………何時何時必要になるか分からんからな……」 「? 儒艮、あんた何で涙目さ」 「俺ぁこういう話弱いっつったろうが。悪人が誰もいねぇ癖に、誰も幸せにならねぇ話はな――」 「それは違いまするよ、儒艮」 「うん? 何だよ」 「悪人はどう考えても私達でございまするし、私達は幸せでございまする」 「上手い事言うやね……」 「……悪人が幸せになる話なんてあるかボケェ。勧善懲悪が喜ばれる世の中の癖に」 「事実は小説より非道なり、ですわね」 「だから上手い事言ってんじゃねぇよ」 「疲れましたでございまする」 「はい」 「本当、疲れましたわ」 「お疲れー」 「何か里遠くねえか――」 「…………距離が変わるわけないだろう……」 真庭魚組―― 任務、標的の暗殺及び所有物の探索。 追加任務、依頼主の正気剥奪。 共に任務完了。 -了- |