【真庭馴鹿】






轟轟と――燃えている。






流石に木が多いだけあって、よく燃える。
自然発火した山火事とでも思われるように――不自然のないように、爆破する。



九尾と自分の共同作業、後始末。
山ごと丸ごと、燃やす。



かちん、と火打石を慣らしてまた火をつけた。




「いやぁはぁ!」




手には、暖かい温もりがある。
それは炎と少しだけ違う、生命の温もり。
自分が助けた赤ん坊を抱いているのだ。


飴の棒を喉に突き刺そうとした栗鼠を止めて。
いい顔をしなかった牡鹿に頼み込んで。


それは別に、この赤ん坊が愛おしかったとか、同情したとかでは――ない。
色々と荒む事の多い忍軍には、絶好の贈り物になるかと思っただけだ。


あの後、牡鹿は。




牡鹿は暫く考えた末「……やっぱ、駄目だよ」と言った。
「ごめん……どう考えても、この子育てるだけのお金、捻出できない」と。


嫌な思いをさせてしまった、だろう。
失敗してしまった。
今度お酒でも贈ろう、と思う。







炎炎と――燃えている。








「なら己が殺そうか?」


先ほどまで猫かわいがりしていたくせに、平然と日計はそう言った。
だから断って、自分が殺すことを伝えた。


「残念だね。でもさ、己の事が好きなら、今度はちゃんと真庭に生まれてくれば良いよっ」


待ってるね、と微笑んで、日計はその後「愛せたら真庭で、愛せなかったら真庭じゃないんだよ」と、何かに納得したような顔で、誰にともなく呟いていた。
どういう意味だったのだろうか、わからない。








赫赫と――燃えている。








「――赤ちゃんに『惨嘆悩苦』を使ったら、どうなるんでしょう」



最も望む未来を見せる忍法――『惨嘆悩苦』。
赤ん坊に使えば、どうなるのだろう。
失言だったというように「そんな事、どうでもいいか」と呟いた天狼に、




「きっと今が見えると思うわあ」



晩鳥はそう言った。「きっと今が一番、幸せ何やもの」と。
よくわからない無邪気で根拠の無い言葉だったけれど、なぜか納得した。








朗々と――燃えている。







「まあ、おれはそれでいいと思うけど。さっさと始末して、帰ろうぜ」
「海象はんがそう言うんなら、皆我慢せなあきませんえ?」
「何だそのおれが一番残念がってるみたいな言い方! 別に最初っからどうでもよかったぜ」
「おや。哀しくないんえすの?」
「ねえよ」




「わたしは悲しいえす」と言った九尾に――その九尾を見て複雑そうな顔をした海象。
だってこの子もわたしの子供やもの、と。








明明と――燃えている。








「ちゃんと……殺した方が、いいと思うです……よ?」
「Me too! 半端に生かしちゃうよりはそっちの方がいいと、僕も思います」



わかったぜ、と了解すると、二人は笑ってくれた。



「違う……時にまた……お友達に、なる……です」
「Sorry……です」




裏切りさんの赤ちゃん。
侮蔑の言葉の筈なのに、何故か親しみが篭っている、気がした。








煌煌と――燃えている。








「くーん……残念っすね」
「え、えと……さよなら、で、いいんですかね……?」
「いいと思うっすよ!」



雪兎は、人見知りの彼女にしては珍しく――赤ん坊の顔を撫でた。
その後小さな手でつかまれて、驚いて少し逃げてしまったけれど。

山犬は寂しそうな顔をして、手を振った。









――燃えて、いる。









「さよならだぜ、いやぁはぁ」




全員分のさよならに、自分のさよならを追加する。




謝罪は筋違いだろう――だって、全員が全員幸せになるなんて、所詮は無理なのだから。
それは砂の上の城の如く。
理想は崩れる為にある。





「きみは何が好きだったんだろうな?」




好きな物、贈ってあげたかった。




そう思いながらそおっと、地面に赤ん坊を下ろした。
潰れてしまわないように木を重ね、小さな簡易小屋みたいなものを作る。





そこでようやく、今までただの一度も泣かなかった赤ん坊が、泣いた。
だけど泣き声は、炎の音に――掻き消された。












真庭獣組――


任務、抜忍とその一族の殲滅。


恙無く任務完了。

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