一.太平楽。
真庭忍軍は、暗殺専門の忍者集団である。


依頼が入れば総員の力を使い、確実に任務をこなす――筋金入りの、しのび。
そんな彼らだったけれど、別に依頼もないのに会社に集う必要は全然ないわけで。
それでも皆結構暇つぶしに会社に来てたりするのだけれど、今ビル内にいるのは虫組三人だけである。
割となあなあになっている会社当番、またの名をお留守番係――今日の当番役が、この三人なのだった。


まあだけど、何もなければそこにいるだけなので。
三人で和気藹々、トランプで遊んでたり。



「……っ」
「ひっかかったな……!」
「修行が足らぬぞ蜜蜂」


ババヌキだったり。



お前ら本当に暗殺専門の忍者なのかよ、というつっこみはさて置いて。
真剣にトランプ遊びに興じていた三人の視線が、揃って一箇所に向けられた。














「……っまにわにいるか……!」
















真庭忍軍をまにわになどと呼称するのはこの世に三人しかいない。


一人――美貌の白髪の奇策士、とがめ。
一人――例外的な病弱の天才、鑢七実。








そして最後の一人が――立った今、随分と焦った様子で大音を立てて扉を開けた鑢七花だった。









「虚刀流。どうしたんだ? あんま俺らんとこ来ると、奇策士に怒られんぜ――」
「ねえちゃんが」






勿論息など切れていない。
それでも全力で走ってきたのが、よくわかる。







「ねえちゃんが、さらわれた」









* * *









「ふうん?」





慌てている様子の七花に対して、対する真庭虫組の反応は――あまりにも薄いものだった。
七花の言葉を信じていないというよりも、信じてなお、それがどうしたというような。





「僕達に何を頼むつもりなんですか……? 一応言っておきますけど、わかってるとは思いますけど、鑢七実さんさらった相手を助けてくれって言われても無理ですからね」
「運悪いのは認めるし同情もするけど、鑢七実狙ったのがそもそも悪いよなあ。そもそもあいつ止められるのお前ぐらいだろ。頑張れよ。自信持てって」
「違うって」










焦れたように七花が言う。








「ねえちゃんを、助けたいんだ」
「……虚刀流。断言しとくが、確実にあいつは自分で逃げられるぞ」
「もう逃げてるんじゃないですか?」
「じゃ、なくて……!」
















「薬」
















そこで蟷螂が、口を開いた。







「薬を持っていって、いないのではないか」
「そう、そうなんだよ……!」






鑢七実は病弱だ。
病弱なんて言葉は生ぬるすぎるぐらい、弱い。
彼女の身体は病の巣窟。






二時間ごとに薬を投与をして、ようやく世界を生きていけるという具合で。












「最後に投与したのは何時だ」
「三十分前」









残り一時間三十分――随分と、頼りない時間だった。