三.




「………………」
「………………」



「川う「待ちなさい」







また会った。
早速人を呼ぼうと思ったら、今度は口ごと塞がれる。






「お前何してんだよ」
「貴方に会いに来たに決まってるではないですか」
「決まってないっつーの。放せ」
「お断りします」






ぼそぼそと喋ると、平然と返された。







「おれ今から仕事なんだよ」
「むう。人が折角会いに来たと言うのに連れないですね」
「きゃはきゃは、誰が頼んだよ。ていうか連れない以前に仕事だからな」





子供をあやすように、喰鮫の頭を軽く叩く蝙蝠。

それを少しだけ不本意そうに見つめて、喰鮫は蝙蝠の肩に手を回した。
怪訝に思った蝙蝠が、振り向いた瞬間。








「……っ」







頭部を押し付けて、そのまま唇を押し付けた。
蝙蝠は、元々大きな瞳を更に見開いて――






「放せっ」







その柔軟な体を限界まで使って、喰鮫の腕を抜け、飄々とした――出会った時からなんら変わらない表情を力いっぱいに睨みつけた。
心の底から憎しみを込めた眼光に、喰鮫は気がつく。










それは殺気にも似た、深い憎悪。












「蝙蝠」
「――死んじゃえよ、お前」








蝙蝠は笑う。
実に可笑しそうに喰鮫を――或いは自分を嘲るように、笑う。










「きゃはきゃは……ふざけんな」









高揚したような表情に反して、その言葉は酷く冷たく――辛辣だった。











「俺が体売ってんのは金の為なんだよ」
「………………」
「誰にでもするとか、思ってんじゃねえよ」
「…………すみま、」
「死んじゃえ」








その瞬間喰鮫は――蝙蝠の瞳に。
出会った時と同じ、涙を見た。









「蝙蝠」
「名前呼ぶな、馬鹿」









そう言うと、蝙蝠は駆け出した。
恐らくは――客の下にいったのだろう。
金の為だけに抱かれる、相手の下に。









「どうして――」







どうして。




そう思ったことだけは確かだったのに、その後の言葉はわからなかった。