Who is this?1.
「そうそう、妊娠したのよ」 戦場ヶ原ひたぎは、神原駿河にそう宣言した。 厚顔とも取れる不遜な口調で、それは後輩に対する態度ではなく、ましてや友人に対する態度とは到底言えなかったのだが、彼女の場合はそれがデフォルトのようである。 その証拠に、駿河はその態度にはまるで動じた様子を見せなかった。 その代わり、台詞には明らかに狼狽していたのだが。 「せ、戦場ヶ原先輩……それは」 「子供が出来たということよ」 「そんな……っ」 頭を抱える駿河。 「阿良々木先輩にそんな甲斐性があったなんて……っ!」 「半ば予想していたけれど、やっぱりそこなのね」 「うむ、一割冗談だ」 「ほぼ本気な訳ね」 まあそれで貴方を呼び出したのよ、と戦場ヶ原はにこりともせずに言う。 「諸々の用品を買いに行くから手伝って頂戴」 「うむ。それはかまわないのだが、先輩」 「黙りなさい。貴方の単純な脳みそが考える事なんてぐちょっとお見通しよ」 それぐちょっと握りつぶしてんじゃねーのか――阿良々木暦がいたらすぐにつっこみを入れそうな台詞だったが、ヴァルハラコンビの後輩の方はスルーした。 この世界にはボケしかいない。 やりにくい事この上なかった。 「阿良々木君といけというのでしょう」 「うん。まあ、そうだ」 「嫌よ、だって阿良々木君との子供じゃないもの」 「ま、まさか」 「嘘よ。もしかしてみたいな顔するのやめなさい」 阿良々木君には教えてあげない、と戦場ヶ原は妙に可愛らしく言う。 「だから阿良々木君とは会ってないわ。ざっと六年ほど」 「うむ、出会ってもいないな!」 「まあお互いもう大人だから、別に会わない理由なんて幾らでもつけれるわ」 いつでも会えた高校生時代とは違う―― 社会人二年生の戦場ヶ原ひたぎは、既にお局様の雰囲気を醸しながら言う。 「携帯も着拒したし」 「その理由はつけれるのか?」 「嫌いになったとか」 「色々本末転倒だな!」 「いいのよ。寝取られる恐れのある彼女は、既にいないし、ね」 それはきっと彼女の事だ。 どこまでも優等生で、どこまでもいい奴で、大学にも入らず――世界を見ると度に出た彼女。 「阿良々木君が逃げられないように、万全の準備をして報告に行くわ」 だから手伝って頂戴、と戦場ヶ原は人差し指でくい、と駿河のあごを持ち上げる。 「勿論一も二も無く手伝う事に依存はないぞ」 「ええ。皆まで言わなくていいわ、駿河。貴方の可愛い脳みそで考える事なんて、ぐちゃっと磨り潰すわよ」 阿良々木君は逃げないでしょうね。 でも逃げないだけならいらないの。 その台詞にようやく納得したように駿河は頷いて――戦場ヶ原に付き従った。 私はそれを――見ていた。 |