止め処ない、留めない2.

「よーし今から夕飯作るからねー」
「お手伝いしましょうか」
「いいよお客さんにそんなのは!」
「大体お前その手のセンスないだろ」
「人識君うるさい!」

だってこいつ部屋に行ったら水道水出すんだぜ。
そう思ったが黙っていた。

「というか、人識の部屋にでも行っていたらどうだい? 気を使わせて悪いね」

無駄に気を回すのが上手い兄貴がそういう。
でもそう思うなら最初から呼ぶな、と思った。

「はあ……そうですか」
「いー、行くんなら行こうぜ……つーか俺が疲れた……」

部屋に着くと、戯言遣いは行き成り、どさり、と人のベッドに無造作に倒れこんでいる。

「疲れた……」
「かはは……お疲れ」
「大体なんなんだよ君は」

微妙に怒ってるらしかった。

「突然妙なお願いしてくるし。家族に紹介しないとだからって少女漫画か? しかも丁度哀川さんがいる時狙うなんて全部計算してたのか……?」
「いやあ、あの赤いのにはなるべく会いたくねーから別に計算とかじゃねえけどさ」
「数奇な運命回帰な宿命だな……もうなんなんだぼくは。『切腹マゾ』の渾名は伊達じゃなかったのか……?」
「そう怒んなって」
「いや、今自分と自分を取り巻く全てについて全力で思考してるんだ。頑張らないぼくが頑張ってるんだから、放っておいてくれ」
「まあそれもいいけどよ、良かったら俺も寝たいからちょっと避けろよ」
「床があるだろ」
「……いーたん、反抗期?」
「大体人間起きて半畳寝て一畳だ。殺人鬼はもっと少なくていい筈だ」
「それは差別だ……」
「差別が嫌なら分別した方がいいのか?」
「ゴミかよ俺は」

その時。
漫画みたいな効果音がして――ドアが開いた、否。

吹っ飛ばされた。

こんな事する奴は一人しか存在しないと、わかってる。

「おい潤てめえ……!」
「兄ちゃん邪魔! ははは、そうむくれるなよいーたん! ほんとは激ミニスカートはかせたかったんだぞ!」
「これでも譲歩してやったみたいに言わないで下さい!」
「どうみたって譲歩してやってんだろうが!」
「大将、どうにかしてくれ……」
「努力はしてるのがわかんねえのか!」
「……キャラ壊れてるぜ、かはは」

高らかに登場した請負人。
あのドア明らかに妙に曲がっているのだが、壊れていないかが心配である。

「いやあ……しかし凄いねえ……あの人識が丸め込まれるとは」
「本当ですよう! これは我々に心強い味方が現われましたね! 打倒、零崎人識!」
「倒してどうすんだ倒して」
「んー本当年甲斐もなくこの零崎双識、心の底から驚かせてもらったよ。ようこそ零崎家へ」

変態に握られた両手は大して気にせずに、戯言遣いの首は請負人の方に向く。

「ていうか哀川さん、何しに来たんですか」
「えー軋識で遊びに来たら、いーたんが丁度来てるみたいだったからさ。あたしのコーデで来てくれて感激っ! 後今度哀川って呼んだらはったおすから」
「コーデって略すなっちゃ……そんな年でもなげふっ」
「うるせえんだよ兄ちゃんお前どうせあれだろ、ネット上で『スイーツ(笑)』とか大量に書き込むタイプなんだろ、このネトゲオタめ!」
「俺はどっちか言やあリアルよりだっちゃ!」
「ああもう面倒くせえな黙んねえと襲うぞ!」
「俺にすりゃあこのノリで人類最強と喋れる大将の方がよっぽどだがな……傑作だぜ」
「だってあたし、身内に甘いもん」
「だから年考えてってえ!」
「だーかーらーうるせえんだよ兄ちゃんは」

「あの、何かぼく、帰っていいですか」

俺も帰りたかった。