止め処ない、留めない1.

「ひーっとしーき君!」
「……何だよ」
「うふふ、幾らなんでも水臭いですよお」
「何の話だ」

いやらしく笑った妹の顔をみて、嫌な予感しか感じなかった。

「わたくし零崎舞織、持ち前の超能力でびびっと当てて見せましょう! 人識君、彼女さんいますね!」
「いねえよ」
「ごまかしても駄目です! ケータイの写真が何よりの証拠です!」
「てめえ……勝手に見やがったな……!」

きゃーごめんなさいーと奇声を上げて逃げていく舞織。
溜息を吐くしかない。
大体彼女など、嘘ではなしに、いない。
いるとすればあいつは男だから彼氏、というべきなのだろう。
そもそもあいつの写真など携帯にあっただろうか?
勘違いの予感がする、まあ勘違いなら逆に好都合なのだが――と思いながら携帯のメモリを確認した。

「…………」

一枚、あった。
それは確か、例の赤い請負人から送りつけられた写真であり。

「ほーらほら、その可愛い人でしょう! ねーおにーちゃん!」
「そうだね、舞織ちゃん! ねえ人識、連れておいでよ!」
「僕はその間出て行かせてもらおう」
「こら、トキ! 折角の人識君の初恋人なのに!」
「僕としては人識がそういう対象を作れた事に喜びを禁じえないのは確かだが、その事と、人識とつきあえるような稀有というより奇異な人物に会いたいと思うかは別だ」
「全くもう! どうしてそんなんなんですかー! だからこそ面白いのにー! 軋識さんなんか写真見た瞬間完全硬直してましたよ!」
「まあともかく連れてきなさい人識!」


「その可愛い女の子!」


その写真の中で、あの男は妙に似合う制服に身を包んでいた。
しかも女子高生の、だ。
二十歳近い男が女子高生の制服が似合うのはどうかと思うが、しかし、まあ可愛いと思わなくもない。

しかし面倒なことに、目の前には家族の彼女に期待を膨らませる連中の姿がある。
ほんとにどうしようかと、思った。


* * *


ほんとにどうしようかと、思った。

「……はじめまして、いー子です」

チェック柄で丈の長い、ともすればワンピースで通りそうな、派手な色のシャツに袖を通し、その上からごつめの上着を無造作に着る。膝までのカーゴパンツにアンバランスにも見える底の高い靴。コーディネイト、哀川さん。何が怖いってモデルが自分であること。
変態チックな零崎人識のお願いに、付き合うつもりはあまりなかったのだけれど、偶然来ていた哀川さんが事情を聞いて乗り気になってしまったのが痛かった。
戯言遣い、人生二回目の女装である。

「やあやあいらっしゃい、いー子ちゃん! 人識から話は聞いてるよ!」
「話した覚えはねえよ」
「こんな駄目人識君の事は放っておいてどうぞ入ってくださいよー。うわー、いー子さん白いですねー細いですねーうらやましいですようー」
「テンションあげすぎだろ」

うぜえ、とぼそぼそ呟きながら零崎は僕を上へと案内した。

「やあ、今お茶を淹れるからね! 本当はもう二人兄弟がいるんだけど、二人とも今丁度出て行っちゃっててね!」
「いや……どうかお構いなく」
「お構いなくといわれても構って構って構い倒して構い殺しちゃうのが零崎家ですよう!」
「それはお前と兄貴だけだ。つーか、いー、もうちょい崩してもいいぞ」
「どこをどう崩せって言うんだよ……既成の常識とか?」
「あーそれはさっさと崩す事をおすすめする」
「ちなみに自尊心はとっくに崩れてる」
「……悪かったよ」

お茶が入ったよーと零崎の家族の声がする。
何が恐ろしいって、今日はお泊りな所なのだった。