「……舞織」 ノックをして、名前を読んだ。返事はない。 軋識は溜息を吐くと、黙ってドアを開けた。 「入らないで下さい」 涙の混じったような声がする。 静止の言葉など耳に入らなかったように、軋識はその部屋の中に足を踏み入れた。 「レディの部屋にずかずか入り込んでくるなんて、幾ら家族でも非常識ですよう」 「小娘がいっちょまえにレディぶるんじゃねーっちゃ」 「うるさいです。来ないで下さい」 やはり、聞こえないフリをする。 ベッドの上で、布団で顔を隠すようにして――舞織は、いた。 「レンが心配してるっちゃよ」 「……心配、しなくてもいいです」 「自分で言うっちゃ」 「出たくないです」 「飯ぐらい食わねえと、身体持たないっちゃよ」 「別にいいです。持たなくても」 「舞織」 より一層強く、舞織は布を顔に押し付ける。 「だって、私今それどころじゃないん、です」 「分かってるっちゃ」 「分かってないですっ」 涙の混じったような――というより、完全に涙声で、舞織は呟く。 聞き取れるかもわからないような、小さな声で――囁く。 「好きだったんですよう」 「……分かってる」 また近づくと、軋識はその小柄な矮躯を、包み込むように抱きしめた。 舞織はその胸板に、顔を押し付けるようにしながら――声を殺して、泣いた。 終わらない恋なんてないと知った |