【真庭牡鹿】






「お帰りぃー」


お帰りと言うのは語弊がある気がしたけれど。
とりあえず、そう声を掛ける。



「さお姉……ただいま、です」
「ただいま皆ー! ちゃんと殺して来たよー」
「お疲れ! んじゃあ早速だけど、何人殺したか教えてくれるぅ?」
「何人――」
「――殺したか?」


なつはゆっくりと首を傾けた。
日計はにっこりと首を傾げた。


「……覚えてねえんだろ、おまえら」
「違うよ海象ちゃん! 覚えてないんじゃなくてそもそも数えてないんだよっ!」
「尚更問題だろうが!」
「くーん……そうなんすか?」
「あらあら、大変えすねえ」
「なっちゃん、お帰りですえー」
「むう……ただいまです……」
「ちょっとぉ……お開きな雰囲気にならないでよー」


そう当てにはならないと思うのだが、一応事前の情報と死体の数を照らしておきたい。






――んもう、昔の人も面倒くさい事してくれたよねぇ。






「これで終りなのかなぁ? ……はっきり分からない分、ちょっと困るんだけど」
「一応、わたしが確認してきますえ?」
「いいのぉ、九尾ちゃん」
「勿論えす」


九尾は静々と、その場を立ち去った。
まあ、九尾なら、大丈夫なのだろう。


「ふぅ……」
「さお姉、だいじょぶ、ですか……?」
「ん? ああなっちゃん、大丈夫だよぉ、さおは」
「つか……れて、ません?」
「元気だよぉ」
「嘘っすよー」


山犬の声が聞こえる。


「牡鹿さん、情報集めたり計画練ったりで最近ろくに寝てうあああああっ!?」
「はーい余計な事いう口はどの口かなぁ? 一片も残さず消して欲しい?」
「牡鹿ちゃん無理は駄目だよっ! 己が膝枕してあげよっかっ」
「お気遣いありがと。でも男にやられるなんてご・め・んだからぁっ」
「己牡鹿ちゃんの為だったら女にだってなれるよっ」
「……今となっては冗談に聞こえねえ冗談だな」
「んー? どういう事? わっちよくわかりませんえー」
「ぼくも……よくわからない……です」
「というか助けて欲しいっす……そんな隠す必要ないじゃないっすか」
「そういうのは隠しとくのが格好いいの! あーもう恥ずかし……」




「oh? 皆さんお揃いですね!」
「只今帰ったぜいやぁはぁ!」
「えと、帰ってよかったん、ですよね……?」
「大丈夫だと思いますよ」




外回り組が――帰ってきたらしい。




「お疲れぇ」



そう言って四人の方向を振り返ると、そこには。
四人以外の一人が――存在していたり、して。





「……何その赤ちゃん」
「皆同じreactionですね……」





栗鼠が困ったように頬をかいた。
天狼と雪兎も気まずげに視線をそらしている。
唯一こちらを真直ぐに見た馴鹿は、快活に笑うとはっきり言った。



「この子真庭で育てちゃ駄目かな、いやぁはぁ!」
「駄目」
「早っ」



即答した。
即答せずに――どうしろと。



「あのさぁ……? 皆殺しって、さお、言わなかったっけ」
「言いましたよね……すみません」
「でも皆殺しにするのってさ、後々面倒な事起こさない為なんだろ」




その通りだ。
復讐したりされたり、そんなのはここで終わらせなければ。
次の代に持っていってはいけない――自分たちだけで、十分。
苦しいのは、十分だった。


「こんな小さかったら絶対覚えてないと思うぜ、いやぁはぁ! だったら大丈夫だろ!」
「ねっちょっと己に抱かせて! 己子供大好き!」
「わーちっちゃいわあ」
「動いてる……です……?」
「あ、俺も触りたいっす!」
「だから勝手に容認な雰囲気にしないのぉ!」



「お、お願いします……牡鹿、さん」
「駄目――でしょうか?」
「むぅ……」



今度は即答――出来なかった。




「今から考えるからちょっと待って……」
「りょーかいっ」




ああ、どうして――どうして忍軍の連中は、こんなにお気楽なのだろう。
それは愚痴の筈だったのに、自分は微笑んですらいるのだから不思議だった。

【真庭雪兎】← →【真庭九尾】