「殺しますか」 「……っ」 無機質だった。 作り物のような声に、作り物のような言葉。 感情が欠落してしまっている。 なのに何故かその声は、自分に感情を与えた。 怒りと言うには静かすぎて。 悲しみと言うには激しすぎる。 殺意か。 そう表現するのが美しいと、そう思った。 対象たるの彼女はゆるりとした足取りで、目の前までやって来た。 随分低いところにある視線で、こちらを真直ぐ見上げる。 見下しているようにも見えた。 見下して、見放しているかのように。 「殺しても、いいですよ」 「………………」 細い首に手を掛ける。 簡単に折れてしまいそうな、白い。 伝わる筈の体温は、伝わってこなかった。 例えば蟷螂のように鋭利な爪で刈らずとも。 例えば蝶々のように真庭拳法を使わずとも。 首を締め、首を折り、首を切り取れる。 それが、何となく、確信できた。 このまま、軽く動かせば――存外軽い音がして、折れてしまうのではないだろうか。 それはそう、人形を壊したときと等しく。 彼女に血などなさそうだ。 血も涙も、なさそうだ。 「――悲しいですか」 力を込めかけた手が緩む。 見れば彼女は、無表情だ。 無表情のまま、泣いていた。 悲しいかと僕に聞く。 悲しそうでもない顔をして。 悲しそうに泣きながら。 血も涙もなさそうなのに。 涙はだけは、あったようだった。 「悲しいとか、そういうのは――ありませんよ」 「悲しそうに、していますが」 「してませんよ。大体、僕の顔なんて、貴方から見えないでしょう」 「感情は、顔だけに出るものではありませんよ」 全身に滲むものですよ、と彼女は言う。 「現に、ほら――私は」 「貴方は?」 「悲しくなさそうでしょう」 泣いているのに。 悲しくない。 「貴方は――泣いていないけれど、悲しそうですよ」 泣いていないけれど。 泣いてはいないけれど。 泣いてなど、いないけれど。 「そうかも、知れません」 悲しいの? 悲しい、よ。 (何よりも哀しく)(何よりも愛しかった) |