戯言遣いと玖渚友。





「じゃんっ! 僕様ちゃん開発、チョコレートOS! 見て見ていーちゃん、何もかもチョコレートなんだよ! フォント作るのが大変だったんだからねー」



見た目は普通のデスクトップ型パソコン。映し出された画面は、なんというか。見ただけで吐き気を催せそうなほど甘ったるかった。アイコンもフォントも全てチョコレートを模している。入っているソフトは開かれていないが、恐らくそれも全てチョコレート一色なのだろう。



「……で、友。僕にそれをどうしろと」



もって帰れというのだろうか。正直、あの骨董アパートでネット環境を整えるのは難しい。



「バレンタインのチョコレート代わりのつもりなのか」
「はっ! そうだ! バレンタインだったんだ!」



忘れてやがった。




「しまったよどうしよういーちゃん! いーちゃんに何かサプライズなチョコレートを送ろうと思って色々探してたはずなのに、何がどうしてチョコレートOSなんかが出来ちゃったんだろう?」
「本当、何で出来ちゃったんだろうな……」
「あ、ちょっと待ってねいーちゃん!」



玖渚はチョコレート一色のパソコンを何やら弄り始めた。尋常ではないスピードで、小さな指が動く。




「はいっ」





見せられた画面には、おいしそうなチョコレート(映像)があった。
うわーおいしそー(棒読み)



「……友」
「ん? 何かな、いーちゃん」
「玖渚友……」
「んん……」




玖渚はそこでようやく「ごめんね、いーちゃん……」と言った。
ぼくは溜息を吐く。




「まあいいんだけどね……甘いもの、そこまで好きってわけじゃないし」
「うー……許してもらっちゃうと逆に心苦しいよー」
「お前も心苦しいとか思うのか」
「思うよ! 僕様ちゃんはいーちゃんの事考えるとき、いっつも胸がぎゅってなるんだよ!」



照れたように笑う玖渚。誇らしげに笑う、玖渚友。


だから、ぼくもだよ、とは言えなかった。
ぼくもお前の事を思うたびに胸が苦しくなる、なんて事は。



玖渚は何かを思いついたように、手を叩いた。



「そうだ! いーちゃん、外に行こうよ!」
「……お前からそんな言葉が聞けるとは思わなかったよ、友」


ひきこもりのくせに。


「買い物に行こう! いーちゃんにチョコレート買う!」
「そこまでお菓子会社に貢献しなくてもいいんじゃないか?」
「ん? 何で僕様ちゃんがお菓子会社なんかに貢献するのさ。何何いーちゃん、何思ってちゃってるの? うにに、なら今日買い物した後、お菓子会社潰しちゃおっか?」
「ぼくが悪かったです」




洒落にならない。冗談じゃない。笑えない。
玖渚はくるりと椅子を回転して、ぼくに飛びついてきた。



「うにうに。いーちゃん、大好き」
「そりゃどうも」
「お菓子会社の陰謀にのっちゃってもいいぐらい、今の僕様ちゃんは恋する乙女なんだよー」
「そうか」



しばらく、その小さな体躯を抱きしめる。
気が重たいバレンタインも全て、この瞬間で救われる気がした。