触れた体温が熱を患う

 

 

 

 

凍てた空気が肺に流れ込んでくる、入れ替わりに吐き出された息はうっすらと濁っていた。中空を超えた月は細く青白く、それが特に理由も根拠も無く、白鷺に寒々しい印象を与えた。
板張りの床と自分の足との境がはっきりしない、既に足先の感覚が無くなっていた。冷たい鎖からも体温が奪われている気がして、悴んだ手には僅かな感覚と痛みしか残っていない

 

「ぁは」

 

僅かに吐いた息も幽かに乳白色を帯びている。することもない、任務も入っていない。何よりも身体を蝕んでる冷気が不快だった。我慢できないものでもない。けれど我慢できるのと感じないのは同一でない。
ぞくりと身体が小刻みに震えた。

 

「白鷺ではないですか」
「鮫喰・・・・・・」

 

声に後ろを向けば会いたくもない奴。先程の悪寒は寒さのせいでなくこいつのせいじゃないかと思う。あながち、間違いではないだろう。

 

「そんな嫌そうな顔をしなくてもいいではないですか。いいではないですか、いいではないですか、いいではないですか」
「よか用か何」
「ふう、相変らずつれないですね」
「ろだ係関はに前お」

 

取り付く島も無いといわんばかりの白鷺に喰鮫は再び嘆息した。白鷺としてはむしろこちらがためいきをつきたい気分だと言いたい。とどのつまり、どこまでいってもこの二人の考えは噛み合わないのである。
無意識に口からこぼれた吐息が乳白色に濁る。

 

「白鷺、寒いのですか?」
「に別」

 

あからさまな虚勢であった。それは喰鮫も言った白鷺自身も分かっていた。事実、白鷺は喰鮫の前、という理由だけで身体の震えも悴んだ身体の末端を犯す痛みも、すべて身体の内に押し隠していた。けれど、特にこの男には弱みを見せたくなかった。そんな白鷺の思いを嘲笑うかのように喰鮫は白鷺の腕をつかみ抱き寄せた。

 

「せ離・・・っな!」
「冷たいですね。冷たいですね、冷たいですね、冷たいですね。もしかして白鷺、あなた冷え性ですか」
「いさるう、う!」
「女性に多い症状だと聞きましたが」
「いさるう!れ黙!」

 

その反応が肯定と等しいことを分かっていても尚白鷺は喰鮫に普段の調子を奪われていた。恥だった。そういう症状をもっていることが、なにより、それをこいつに指摘されたことが。
いつだってそうだ、こいつは―

 

「白鷺」

 

冷え切った身体では喰鮫の低い体温すら温かいと感じた。抵抗を諦めてぬくもりに身体を寄せる。頭上で、喰鮫の笑った気配がした。後頭部を押さえられて強引に顔を上へと向けさせられた。
不快だ、不快だけれど、白鷺はなぜか抵抗しなかった。
冷え切った身体の中で唯一、触れた唇だけが、熱いと、感じた。

 

 

 

 




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久我峰さまから頂きました相互記念ですv
かみ合わない二人とか、何だかんだ言って抵抗しない白鷺が好きです。
PCの前でにやける私はさぞ不審人物でしょう。
ありがとうございました!