「はい、蝶々」

「ありがとうな鴛鴦」


そっけないような口調でもその声はやさしく、笑顔で箱を渡す鴛鴦
それを同じく笑顔で受け取る蝶々

今日は2月14日聖バレンタインデー

ええ、皆様の言いたい事はわかりますが、何も言ってはいけません。


ツッコミ担当も今回ばかりは己の仕事を放棄しています。


「・・・蝶々、無理しない方がいいわよ?」

「・・・大丈夫・・・今回は絶対に何も言わねぇ・・・」


素晴らしいです、これもきっと愛の力でしょう
真庭の里の中心で愛を叫んでもらいたいです


「それはつっこむからな!!」


「ん?どうした蝶々」

「あ。おはようございます蝶々さん、鴛鴦さん」


朗らかに蟷螂と蜜蜂がやってきた


「お。おはよう蟷螂どのに蜜蜂」

「あら、おはよう」


同じく挨拶をする二人を見て、蜜蜂が「お熱いですね」と言うと、間一髪で蝶々の蹴りが入った


「な、なんで蹴るんですかぁ〜」

「う・る・さ・い。いちいち余計な事言うんじゃねえ」

「えーでも羨ましいんですよ〜普通に渡せて」

「?なんでよ」

「僕が子供のときとか大変なときがあったんですよ・・・ねえ」


蟷螂さん、と蜜蜂は言うとにっこりと微笑んだ
それを受けて気まずそうに蟷螂は顔を顰める


「あれは悪かったと言っているだろうが・・・」

「何が?」

「あ。そうね、蝶々はまだ里にいなかった時期だったわね」

「僕が始めて蟷螂さんにチョコをあげたときの話なんです・・・」

「おい、蜜蜂・・・」


蟷螂が止めるが、蜜蜂は止める気はないらしく続ける


「僕は恥ずかしくって、うつむきながら箱を渡すと、蟷螂さんが『わたしは今日、誕生日ではないのだが・・・』って」


「あ。それ言うと思った」


ほとんどの方が思うであろうことを蝶々がつっこんだ


「ありがちよね・・・」

「いや・・・本当に忘れていて・・・」

「その後」


すばやく蜜蜂は言う


「頑張ってバレンタインのだって言うと、蟷螂さんは『貰ったものが多くても他の人にやるのは失礼だろう』って、どんな誤解の仕方ですか!?」

「新しいなおい」

「普通はそこまで思わないわよね」

「う・・・いや、その」

「更に」

「まだあんのか?」

「周りの人達が説明してくれたおかげで、やっと意味を理解してくれました」

「おー」

「で、僕の将来を本気で心配されました」

「え?」

「男同士は結婚できないだなんだを、3時間ほど説かれていました」

「それは・・・」


本来ならあっているかもしれないが・・・


「この世界でそんなこと言うのはどうかと思います」

「・・・すまん」

いや、間違ってねーよ!!忘れかけてるけど蟷螂どのはあってるよ!!」

「子供にですか?」



ものっすっごい笑顔で蜜蜂が言う。背後には何か禍々しいものが見える



「僕軽くトラウマなんですけど」

「・・・・・・」


蝶々は黙ってしまった

なんかもう、突っ込んではいけない世界だと認識してしまった
突っ込んだらいろんな方に刺されると実感してしまった。


「まあ、それ以降はまともに渡せているので気にしていませんが・・・」


そう言って、取り出した包みを蟷螂に差し出す蜜蜂


「今年は・・・ちゃんと受け取ってくれますか?」


このタイミングで渡すのかよ


とゆうツッコミを蝶々はこらえた
そんな無粋なツッコミはプロ意識が許さない


「そんなこと思ってねーよ!!だいたいバレンタインって言葉が出てる時点で諦めてるけど、カタカナ語出すんじゃねぇ!!」

「・・・蝶々、今は黙っておきなさいよ」


天の声につっこむ蝶々をたしなめる鴛鴦

そして、チョコを差し出された蟷螂は口を開いた


「拒否する」


びしっ

空気が凍った
蜜蜂は一瞬固まるとおろおろと狼狽する


「え・・・」


「蟷螂どの怒ってんのか?」

「でも、あれはむしろ蟷螂が悪かったし・・・」


「か、蟷螂・・さん?」


少し泣きそうになっている蜜蜂に、蟷螂は、ん、と何か差し出す


「あ・・・え?」


それは綺麗にラッピングされた包みだった


「蟷螂さん・・・これって・・・」

「安物だがな」


淡々とそれを渡す蟷螂


「毎年おまえに貰うと、お返しをやると言っても遠慮して受けとらんだろう」

「・・・あ」

「だから今年は私からおまえにやる」


ひょいっと、蜜蜂が差し出していたものを取る


「だからこれは、おまえからのお返しとゆうことで貰っておく」


そう言って去っていく蟷螂
貰ったものを抱きしめてぼーっとする蜜蜂


その一部始終を見ていた、蝶々と鴛鴦は軽く感動していた


「蟷螂どの・・・男だよ・・・」

「そうね・・・あ。」

「どうした?」

「そういえば3日前くらいから、蟷螂は台所に籠もっていたわね・・・」

「訂正。乙女かあの人は


まぁ、いいシーンには変わりないであろう

今だにぼーっとしている蜜蜂に蹴りを入れると、蜜蜂はうれしそうに「えへへっ」と笑った


「蟷螂さんってば、安物とか言ってちゃんと作ってくれたんです」

「ん?なんだ知ってたのか?」

「いえ・・・ただ、食べ物に関しては買うくらいなら作ったほうがいい、って方ですから

「だから乙女かあの人は

「むしろそれはお母さん?ってつっこむべきじゃないの?」


冷静に言う鴛鴦。だが自分がツッコミに回る気はまったくないらしい
案外冷たい彼女である


「あ。そろそろ様子を見にいかないと」


突然、蜜蜂は気がついたように言う。
それを見て蝶々は不思議そうに聞く


「何を?」

「蟷螂さんをです」


意味が理解できず、蝶々と鴛鴦は首をかしげると、にっこりと蜜蜂は笑う


「とてもおもしろいものが見れますよ」



*     *     *



「てか、どうせ惚れ薬とかが入ってるってオチなんだろ」


草の茂みから蟷螂を観察する三人
蟷螂は縁側に腰掛けて、何か考えごとをしているようだ

蜜蜂は蝶々の言葉に眉をよせる


「違いますよ。そんなの入れるくらいならとっくにやってますよ」

「確かに。じゃあ、なんか呪いとかかけてあったり・・・」


「僕は蝶々さんの中でどんな人間なんですか?」


「なによ、何もしてなかったの?」

すること前提!?しませんってそんな特殊なこと!人鳥さんじゃあるまいし」

「ひ、ひどいよ蜜蜂君!」

「「うわっ!!」」


ひょっこりと人鳥が現れた

驚いて飛び去る蝶々と鴛鴦
それを見て『うわぁー・・・来たよ・・・』的に顔を歪める蜜蜂


「ぺ、人鳥おまえどっから出てきた!!」

「び、びっくりするじゃないの!!」

「あ、あの、その、ごごごごめんなさい!魚組は神出鬼没を売りにしようと昨日決定されたので・・・」


「誰に?」


「そうなの、じゃあしょうがないわね」


「いいの?そんなんで?」


「とゆうか、蜜蜂君!」


人鳥が蜜蜂に向き直ると、少し怒ったように言った


「ぼぼぼ、僕、チョコに変なもの入れたりしないよ!!」

「入れてたじゃないですか。喰鮫さんにあげるやつに。いっしょに作っていたから見てましたよ?」

「一緒に作ってたんだ・・・」

「なんだかんだ言っておまえら仲いいな」

「あ、あれは・・・」

「ほら、やっぱり」

「く、喰鮫さまの好きなものを入れてただけだよ!」

「喰鮫の好きなもん・・・?」


蝶々は嫌な予感がした
人鳥は「はい・・・」と答える


「お蕎麦と梅昆布茶と納豆と生姜とねぎと塩辛とイナゴとテングダケをぐつぐつと・・・」


「チョコだよなそれ!?てか、最初の二つはともかく納豆からイナゴにかけてはいろいろ問題あって殺されるぞ管理人。しかも最後のテングダケって毒茸じゃねーか!!」


「喰鮫さまは食べてくださいました・・・チョコ」


「食ったの!?」


「本当におやさしい方で・・・無理やり口開けて放りこんだら食べてくれました☆」


「やっぱり強制!?てかおまえどうしたの!?」


「なんてゆうか・・・歪んだ愛情・・・みたいな」


「無理によく言おうとするんじゃねえ!!そして、質問に答えろ!!」


「蝶々さんつっこんじゃ駄目です!!戻れなくなります!!」

「どこから?」


「あ。こ、蝙蝠さまと川獺さまと喰鮫さまだ」

「普通に無視かよ・・・」

「てゆうか、喰鮫死にそうじゃない?」


見ると喰鮫は、蝙蝠と川獺に抱えられるようにして、運ばれていた
顔は青く、口元を押さえるようにしている


「やっぱりチョコ食べたんですね・・・」

「なんで生きているんでしょう・・・?」


「やった本人がそうゆうこと言わないでくんない?」


「人鳥。テングダケの量が少ないのよ」

「あ。そ、そうですね!ありがとうございます鴛鴦さま!」

「・・・もう、何も言わねぇ・・・」


ツッコミは放棄され、4人は茂みから様子を伺う




「きゃはきゃは。お。蟷螂じゃん」

「こんな所で何してんだ?」

「ぬしらこそ・・・ん?喰鮫はどうした?」


さあ?と二人は首を傾げる


「なんか倒れてたんだよな」

「顔色やべぇし、とりあえず連れて帰ろうかと・・・」

「う・・・」

「お。喰鮫気がついた」


ゆっくりと顔を上げる喰鮫。そして虚ろな目でつぶやく


「い、イナゴの足が・・・」


がくっと首が垂れる


「イナゴって何だよ!?意味わかんねーって…喰鮫ーー!!」

「あ。貞子、貞子!」


「言っちゃ駄目な上に、少しは心配しろーー!!」


楽しそうに笑う蝙蝠に川獺がつっこむ。蟷螂は状況が付いていけずに、首を捻っている


『毒茸よりイナゴかよ・・・喰鮫どの・・・』

『さすがですよね』

『ちぇっ』

『!?』

『残念ねぇ・・・』

『鴛鴦・・・おまえもやめてくれよ・・・』


小声で話す茂みの軍団

蝙蝠達は喰鮫を置き去りにして、蟷螂と話し始めた


『って、置き去りかよ!!』

『『『しっ!!』』』


ツッコミを許してはくれなかった。蝶々は軽く凹んだ


「お!蟷螂それチョコじゃん!」


指差す蝙蝠。蟷螂は手に持っていた箱を持ち上げ「これか?」と聞く


「そう、それそれ!くれ!」

「いきなりそれ!?」

「だって腹減ったし、川獺だってどうせ今年も一個も貰ってねーんだろ?」

「何で知ってんだよ!!」

「ほら、おれとお揃いじゃん」


「嫌過ぎるお揃いだなおい」


「てか、どうせ蟷螂だって蜜蜂からだろ?貰えねえって普通」


正直それ以前の問題だが、空気を読まない突っ込みを入れる人間は真庭忍軍には皆無だった。
そんなことを言っているようじゃ(以下略)


『蜜蜂君・・・蝶々さまの口、塞いでいますか?』

『当然です』

『ん〜〜〜〜!!』

『あんまりツッコミ入れさせちゃうと、話進まないからね・・・』


そんな状況の茂み軍団

蝙蝠が蟷螂に手を差し出す


「蟷螂ちょーだーい」

「あ、じゃあおれも」

「断る」

「「え〜〜〜」」

「貰ったものを勝手に人にやったら、蜜蜂に失礼だろうが」

「それって、ただ単にやりたくないだけの言い訳じゃねー?」

「かーまーきーりーおれ腹へったぁ〜」

「・・・そこにある石でも食っていろ」

「へ〜い」


「納得しちゃうんだ」


少し退いている川獺に、「冗談冗談」と、言っている蝙蝠

その様子をうれしそうに見る蜜蜂を見て、蝶々は(未だに口はふさがれている)おもしろい事ってこれか・・・?と首を傾げる




「た、確か・・・」


そこで、今まで黙っていた(倒れていた)喰鮫が、息も絶え絶えながら喋る


「蟷き、りは・・・甘いものは、苦、てでは、ありません・・・でしたか?」


「「え」」

『『え』』

蝙蝠と川獺の声に、蝶々(手は離した)と鴛鴦の声がハモる
もちろん小声だが


そうなの?とゆう視線を蝙蝠と川獺に送られた蟷螂は、顔を顰めながら「まあな」と、言う


「苦手とゆうだけで別に食べれはするから平気だが・・・」

「って・・・蜜蜂は知らねーのか?」

「おそらくは・・・」

「言えばいいじゃねーか」

「・・・無邪気に渡されると・・・どうしても・・・」

「親馬鹿かよ・・・」


そんな会話を聞いて、蝶々は蜜蜂に聞く


『おまえ・・・知らなかったのか?』

『いえ。知っていましたよ』

『はぁ?』


平然と答える蜜蜂に疑問符を浮かべる蝶々


『じゃあ、何で・・・』


「取ったぁ〜!」


蝶々の質問は、蝙蝠の声によりかき消された
蝙蝠の手には先ほどまで蟷螂が持っていた、例の包み


「「あ」」

『『『『あ』』』』

「おい!」


あっけに取られる川獺と喰鮫と茂み軍団(決定)

少し焦ったように言う蟷螂


「いーじゃん一個くらい」

「どんだけ食い意地張ってんだよおまえ・・・」

「そこまでして食べたいものですか?」

「本気で腹減ってんだよ〜今日まだ何も食ってねーし」


言いながら箱を開けていく蝙蝠


「蝙蝠、返せ」

「嫌に決まってるっつーの」


言って、チョコレートボンボン(ツッコミ不可)を口に放り込む蝙蝠
とたんそれを吐き出した


「ぶぇっっ!!」

「うわ!!汚ねえなおい!!」

「や・・・だって・・これ・・ぐあぁぁぁぁ!!くそ甘ぇぇぇぇ!!!ってかむしろ辛ぇぇぇぇ!!舌が、舌がしびれるうぅぅぅぅぅ!!」

「・・・だから、返せと言っただろうが・・・」

「って・・・知ってたのか?」


呆きれたように言う蟷螂に川獺が聞く


「毎年だからな・・・蜜蜂は甘党だからこれが普通だと思っているらしい」


言いながらひとつ口に運ぶ蟷螂
とたん顔を顰める


「・・・年々甘くなっていくな・・・」

「大丈夫なのかよ」

「いや・・・舌が・・・うっ・・・」

「うがぁぁぁぁ〜〜〜〜甘いのが取れねぇぇぇぇ!!」

「・・・それならまだいいじゃないですか、いいじゃないですか、いいじゃないですか・・・」


ふふふっと力なく笑う喰鮫


「蕎麦の食感で納豆のねばつきとイナゴのばりばり感・・・それに塩辛の生臭さに生姜やねぎの匂いが入り混じり・・・梅昆布茶で割っておいてチョコレートで固めたものを食べてごらんなさい」


「何食わされたのおまえ!?」

『テングダケの存在に気づけや!!』



川獺のツッコミに蝶々のツッコミ・・・・これが真庭忍軍の実力である


『もう突っ込まねぇからな!!』


『・・・それ言っちゃってる時点で終わりよ蝶々』

『て、蝶々さま、あんまり声出すと気づかれますよ・・・』

『いいよ別に!むしろ気づけ!!』

『駄目ね・・・さっき突っ込ませなかったから壊れたわ・・・』


『俺はどんだけツッコミ好きだよ』



はっとそこで気づいたように、蝶々は蜜蜂を見る


『なぁ・・・おまえあれ・・・』

『うわぁ、蟷螂さんあんな甘いものよく食べれるなぁ・・・』


『やっぱりわざとか』


『だって蟷螂さん、毎年どんなに甘くしてもちゃんと残さず食べてくれて・・・眉よせて食べる姿も可愛くて・・・』

『うわぁ、悪趣味〜』

照れたように言う蜜蜂に、人鳥がふんっ、と鼻を鳴らしながら馬鹿にする
蜜蜂はむっとした顔になる


『あんたが言うな。僕はちょっと甘くしただけです』

『・・・あれ、ちょっとかしら?辛いとか言ってるわよ』

『僕はちゃんと喰鮫さまの好きなものですから。嫌いな物をわざわざ食べさせるなんて考えられません』

『あんなの人間が食べる物じゃないですよ。』

『愛があれば大丈夫です』

『あれに愛があるんですか?』

『まさか』


『ないの!?』


蝶々がつっこむが、二人は静かな戦いを繰り広げており、最早聞こえてない


はぁ、と蝶々と鴛鴦はため息をつくと「・・・おれ、鴛鴦でよかった」「あたしも・・・」と言い合った。




楽しい楽しいバレンタインデー

チョコを上げる方は絶対に真似をしてはいけませんよ、いけませんよ、いけませんよ、



「って、語り部おまえかよ!!」




END




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夢水秋香様にリクエストしました「黒蜜蜂か黒人鳥の話」
両方入ってた……!お得パックですね!
黒い二人の他には、親馬鹿で天然な蟷螂兄さんがツボでした。
ていうか蝶々さんのツッコミが冴え渡っていました。素敵!
ありがとうございました!