【熟れ愛】 質素だが手入れが行き届いている 調度品用に支給される金は己と同じであるはずなのに、選んだものがあまりにも違う 彼は、調度品だけではなく装飾品にも凝っているらしい “全て予算以内なのですが、いい品でしょう?”と 微笑みながら耳環やら指輪やら色々と見せてくれた ごてごてと無駄に飾り付けるわけではなく、さりげなさを装っていて 着けていることを知っている人間は多くないはずだ 自分とて、付き合い始めるまで知らなかったことなのだ それにしても、外見や美的感覚に関してとりわけ趣旨を持っているわけではない自分ですら この室がとても綺麗な部類に含まれるのだ ということは分かる、と川獺は思う たまに見るならば、これほど目の保養になる室もそうそうはないだろう ただ、自分が暮らすのに関して言えば この室は遠慮したい 綺麗過ぎて、汚すことに気が引けて おちおち怠けることも出来ないから・・・ 「…人の上で、何を物思いに耽っているんです?」 「あぁ、悪い すぐに続きをしてやるよ」 「……結構ですよ、ずっと考え込んでいなさい 考え込んでいなさい 考え込んでいなさい」 「照れてるわりに可愛げないよなぁ、お前」 不愉快そうな声に引き戻されて、手許を見ると 肌蹴た着物の間から白すぎる肌が覗く よくよく考えれば、自分は喰鮫を押し倒している最中だったのだ 付き合い始めて三箇月、こういう関係になってから二月 喰鮫は好き好んで組み敷かれているわけではないのに、律儀にも抵抗の様子など見せない 始めのうちは、散々文句を言われた 「自分は上のほうが良いのに」と それを説き伏せたのは偏に自分の矜持のためだ 自分も男、押し倒されるのは嫌だ と、云い続けたら喰鮫が折れた 最初に好きだと告げたのは自分からだったが、彼は迷うことなく即答した どちらがどちらと決めていなかったのがその時は仇になって、そういうことをしようと決めた初日は流れてしまった けれど、喰鮫が折れてから もう幾度も、儀式めいた此の行為は続いている 今日も、そんな行為の許可が出た日なのだ けれども、喰鮫はどうも自分が来る日に限って装飾品を飾りまわっている様な節がある 「お前さ、自室でくらいこの飾り外しておけよな」 川獺はそう云ってから「いや、違うか…」と、前の科白を訂正しようと再度口を開く 「うーん、なんて言って良いかわかんねぇんだけどさ つまり、おれが来るときくらい付けないでくれと言いたいんだ」 言ってから、中断していた手を動かし始め 慎重に着物を剥いでいく 以前、面倒くさくて少々粗雑に剥いでしまったら 烈火の如く怒鳴られた挙句、蹴られた上お預けを喰らった それ以降、服を剥ぐときはどうしても慎重になりすぎてしまうのだ 「嫌ですよ、任務中は抑えているのですから 自室に居る時くらいはお洒落したいじゃないですか」 「おれが剥ぎにくいんだよ」 少々泣き言めいた科白を言ってしまうのは、普段の扱われ方の所為か 「前置き、長すぎだろ」 「おや、焦らされるのは好みではありませんか? ありませんか? ありませんか?」 「焦らすほうが好きだ」 こんな科白、数箇月前の自分ならば照れまくって言えなかっただろう 喰鮫と付き合ってから、さまざまなことが明け透けになってしまったような気がする 「甲斐性を見せて御覧なさい、これが終われば気持ちいいことが待ってますよ」 「頼むからもう少し恥じらいを持ってくれ、お前は」 ご丁寧に、普段は流しっぱなしの髪まで結わえていてくれて 髪紐一本一本外さなければならずそれでまた時間をとられる ただ外してやるのも癪に触って、ゆっくりと口付けた 口では強情な事を言っていてもやはり体は正直なわけで、逃げ回る舌を捕まえて絡ませた 「……んぅ」 それなりに気持ち良いのか、酔ったような目をする喰鮫 なんだかんだ言うわりに、素直な反応を返すやつである 唇を離して、解き終わった髪に指を通して 「やっと終わった・・・」と息を吐き にやりと笑う 「焦らされた分、取り戻させてもらうぜ」 「か、わうそ…?」 不安気な声と瞳に少しだけ気分を良くして、安心させるように頭を撫でてやり それからもう一度、口付けて 首の所に腕が回ったのを確認してから 流れるような動作で手を進めた ―― 行為は馴れ合いだと、知りすぎている自分達 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 霜月夢様より頂きましたv 「川喰」リクエストの素敵文です! うわあ……喰鮫さんが美人だ(イラストじゃないのにそうとわかる文章ですね……!) 川獺さんがヘタレと攻めの間を行ったりきたりしてて好みでした(笑) 上下でもめる二人。川喰と言えばそうだろう(何がだ!?) ありがとうございましたー! |