「蝉って言うのはさ、よく短命の象徴として扱われるよね」


だけど蝉は本当に短命なんだろうか、とどうでもいいような、否確実にどうでもいい話題を彼は振ってきた。


「そういうフリをしたって事は、おめーが否定するのは確実っちゃけど……とりあえず、家族との円滑な関係の為に『蝉は短命だ』という主張を持ってやってもいいっちゃ」
「回りくどいなあ。とりあえずその台詞によって、そんな事はどうでもいいって主張は伝わったけどさ」


自分の格好でも、軽く汗ばむ室温。外から聞こえてくる蝉の音に思いを馳せるように、双識は言う。
蝉の話題なんかよりお前のその暑苦しい格好をどうにかしろと思ったが、とりあえず沈黙しておいた。



「まあ、ご察しの通り、私は蝉は短命なんかじゃないと思う」


そもそも人間の感覚で蝉を見る事が傲慢なんだろうな、と言う双識。


「きっと、時間の感覚が違うんだよ。感じ方が違う。見ている世界が違う。人間だって昔は短命だったというけど、違う。人間は長く生きるようになっただけだ。命を延ばした――だけで。だからきっと短命なんてのは、不幸の材料にはならないんだと、私は思うよ」



感想があるかい、と双識が言う。




「お前、その格好暑くないっちゃか?」




苦笑。




「もういいよ――ああそうだ、私は明日から少し、家族の義務を果たしてくるから」
「手伝いは?」
「多分いらないだろう。必要になれば連絡する」
「後お前、目的を持って殺人しに行く時に、微妙に死について哲学する癖止めろっちゃ」



こっちまで陰気な気分になる、と言ってやる。



「死んだ時に『そういえばあいつはあんな事を言っていた。もしかしたら奴は自らの死の気配を感じ取っていたのかもしれない』ってモノローグを入れてほしいんだ」
「伏線はってんじゃねーよ」
「悪かったね」

その時、地面に落ちた蝉が僅かに、羽音を立てて絶命した。










この世に蝉ほど悲しい生き物もいないだろう
(そして人間ほど――なんて対句表現、使い古されているのだけれど!)