あのころ玖渚は、青い少年だった。
ぼくたちがまだ――どうしようもなく、幼いときの話。



「じゃあ、いーちゃんを僕のものにしてあげるよ」



どんな会話でどんな文脈で、そんな言葉が出るに至ったのかはわからない。
しかしぼくの貧弱で脆弱な記憶は、そこだけを妙に繰り返し再生していた。



「玖渚君の、もの?」
「うん。その代わり僕はいーちゃんのものになる。これでおあいこ」
「君が、ぼくの?」
「そ。それで、君が僕の」



青い少年は、楽しそうに笑った。




「何だか、告白みたいだね」
「告白だよ?」
「ん?」
「僕はね、いーちゃん。女の子だから」



そして――青い少年は、青い少女へと、突然、変わる。




「ああ、だからか」
「何が?」
「だからぼくは君のことが、好きなんだろう」




友愛では、なかったようだ。
恋愛、だったらしい。




「僕も好きだよ、いーちゃん。だから」
「ああ。いいよ――ぼくは君のものだ」
「そして僕も、いーちゃんのもの」



特に何を思っていたわけでもない。
ただ、玖渚が楽しそうに笑うから――それでいいのかと、思っただけ。




これが悲劇と苦痛の幕開けだったなんて、幼いぼくは気がつかなくって。
賢い玖渚は気がついても――気にはしなかったみたいだ。



それでも。



「好きだよ、玖渚君」
「友って呼んでよ」
「じゃあ、友」



壊れる事がわかってたって、その優しい思いを止めることなんて、できなかっただろう。
そんな逃避的なことを――ぼくは思った。










それは儚くも優しい、さいごの恋
(だって、最初の恋だったんだよ)