「蒼っ」


蒼い少女の手には硝子のコップだったものの破片が握られていた。残骸は床に散らばり、少女の白い肌からは赤い血が湧き出している。蒼に対比させるかのようなくすんだ赤は、この上なく不安を煽った。


「ああ。なっちゃん。どうかしたの?」
「お手を――」
「え? どうして?」

少女は本気でわからないというように微笑む。それは年相応に純粋で、だからこそ少女には不相応な笑みだった。



「怪我が」



どうして、といわれると、返す言葉がない。結局尻すぼみに終わってしまう。どうして。どうして? 少女が怪我をしたからだ。その手当てをしなければならないのだ。痛い――そう、痛くはないの、だろうか。



「痛くないよ? 嫌じゃないよ? なっちゃんは怪我するの嫌なの?」


幸せしか感じられない少女は、血に塗れながら幸福を唄う。



「これは痛いの? 苦しいの? 辛い事なの? 痛いって何。苦しいって何。辛いって何。私にはわからない。私は幸せなのに、なっちゃんはそれが嫌な事みたいに言うんだね。悪い子だ」
「もう――しわけ、ありません」
「痛いが嫌じゃないってわかってくれた?」
「はい」
「なら、はい」


なっちゃんの痛いを見せてよ、と少女は笑って硝子を差し出す。両手で受けようとすると、襟元をひっぱられた。
顔の真上には少女の手、鋭利ではないものの人を傷つけるには十分すぎる硝子。


「目、瞑っちゃだめだよ?」


硝子の破片が、光を受けて、とても綺麗だ。何より、彼女が持っているというのがいい。それは自分の瞳に激痛が走る直前、与えられた感動だった。










まるで操り人形のよう
(恐怖がないのではない、それが快楽に等しいのだ)