紫木一姫という女の子。


姫ちゃん。


死んでしまった、女の子。
ぼくの為だと――嘯いて。


普通になるには、遅すぎた女の子。
普通に為るには、殺しすぎた女の子。





あいつとの代替だとか、そんなのは関係なく――ぼくは。





ぼくは。




『ぼくは姫ちゃんのこと、好きだよ』




戯言じゃなかった。
何とかしてやりたいと思っていたけど、嘘じゃなかった。
計算だらけ打算だらけだったけど、事実だった。




君はいない。
もういない。



ぼくの所為だ。
ぼくの所為じゃ、ない。




ぼくの所為にして、罪悪感に駆られて――後悔して悲しめば、きっと。
ぼくは君を忘れてしまうのだろう。
今まで、ぼくの所為で死んでしまった、彼らのように。彼女らのように。




それは、たぶん、駄目だ。
それは君と過ごした楽しい日々も、忘れてしまうことになる。
君のくれた優しさや、許しや、喜びや――






幸せを、ぼくは忘れてしまうだろう。







だからぼくは悲しまない。
誰のためだとか、そんなのは関係なく――悲しまないよ。







でも、だけど――姫ちゃん。







「別れの挨拶ぐらい、させてくれても良かったじゃないか」









ぼくのためとかそんな気遣い、いらなかったのに。










さようならも言えないくらいに
(早すぎ、た)