「よう、ノイズ」
「……あんたか」



墓参りシーズンなどとうに過ぎた九月の日のことだった。


少年と男は、墓場で再会する。
少年は学生服――男は着物姿に狐面。


何だかお化けか幽霊みたいだと少年は思った。
確かに一度死んでしまって尚生きているこの男は、亡霊というには相応しいのかもしれない。





「偉いじゃねえか。言いつけはちゃんと守ったな」
「うるせエよ。暇だかラ寄ったダけだ」
「暇だから寄っただけ。ふん」





男の手には花束――赤い、彼岸花だった。
少年はそれを見て、笑う。




「彼岸花かヨ……こてこてだナ」
「何馬鹿言ってる。墓参りには彼岸花だと相場が決まってるんだぜ」
「……普通菊とかだロう?」





男は沈黙した。
どうやら知らなかったらしい。
知らなかったのかよ。




「悪いか。何せ俺は墓参りになんざ人生で数えるほどすら行ってない男だ」
「そレ絶対誇るべきじゃないよナ」
「そもそも、墓が在る奴が少ないものでな」





それはそうだろう。
大体今自分が立っている場所も、自分の知っている少女の墓では、ない。
ただここには、歴代の刀鍛冶の骨が納められているだけだ。





「……ま、そうだろうナ」
「ああ……お前、今どうしてる」






気紛れのように男は聞く。
そもそもこの男が此処に来たことさえ、一種の気紛れなのだろう。

どちらでも、同じことだ。





「生きてるヨ」
「生きてる――ふん。随分と不遜な物言いだな」
「んナ深い意味求めルなよ……ただ生命活動は維持してるってだけダ」





生きてるは、生きてる。
生きてるのに死んでるとか、死んでるのに生きてるとか――そんな青臭いことを考えるのは、少し前に止めた。
きりがないことに、気がついたのだ。




「あんたはまダ、世界の終わリを模索中か?」
「ああ。俺の敵が終わらせてくれなかったものでな。頑張ってるさ」
「あんたも四十路来テはしゃぐよな……まあ、頑張れヨ。適当に応援してル」




墓に、水をかける。
男は、花を生けた。




「どうせやる事ないんだったら、無銘でも取り返してやったらどうだ」
「……そレはあんたの約束だロ。面倒押し付けよウとすんナ」
「ふん」





眼鏡のレンズに、太陽の光が反射して、目に入った。
反射的に目を瞑る。生理的な、涙が出た。
生理的というより、精神的な物な気もするけれど。





「まア、いーちゃんにでも会ったら請求しテおく」
「その程度で、構わんさ」






適当に手を合わせて、黙祷。






「世界の終わりが見られますように」
「……初詣じゃねエんだケど」










太陽がまぶしすぎた、ただそれだけのこと
(葬式って奴が日常に戻るための儀式ならば、それを受けなかった俺は彼岸に取り残されたままなのだろう)