大きい背中――小さい背中。
近い背中――遠い背中。


優しい貴方――冷たい貴方。
弱い貴方――強い貴方。




「お兄ちゃん。おでかけですか?」
「うん、ちょっとリハビリがてら散歩に。崩子ちゃんもどう?」
「いいですね。私も最近、運動不足ですし。ご一緒しましょう」




正直な自分――嘘吐きな自分。
綺麗な自分――汚い自分。






「この時期になると結構涼しいもんだね」
「ええ。すごしやすい季節になってくれるのは、嬉しいです」




ほんの日常の間で、矛盾した性質が入れ替わり立ち代り。
ほんの一瞬の間で、矛盾した感情が立ち代り入れ替わり。


愚かしいほどの迅速さで、私の精神を食い尽くす。







りん、と鈴が鳴って、レトロな感じの自転車がそばを通り過ぎた。







「お兄ちゃん」
「なんだい崩子ちゃん?」
「いえ――何でもないです」






凛、と涼が為って、一昔前の青春を思わせる風がそばを通り抜けた。







「そう」
「それよりお兄ちゃん、この前――」
「崩子ちゃん」
「はい?」





「あんまり我慢しちゃ、駄目だよ」







燐、と寥が生って、私のぼやけた視界が――ようやく広く、透った。









「嗚呼」






りん――耳元でまた、音が成る。
貴方に叫びを届けぬようにと、音がなった。










ああ、こんなにもあなたのことが好きなのに
(届けてはいけない、思いがある)