彼女は彼が好きで、僕は彼女が好き。 そしてきっと彼は、他の誰かが好きなのだろう。 報われない。 そんなの始まったときから、気がついてた。 「萌太君は、好きな子って、いないんですか?」 「好きな子、ですか?」 少しはにかんだ表情で彼女は尋ねる。 僕は笑顔で真実を言う。 事実を隠した、真実を言う。 「いますよ――姫姉にとっての、いー兄みたいな人」 「きゃんっ」 彼女は両手で顔を覆い隠すと、指の間からこちらをのぞき見た。 「バレてたですか」 「バレてましたね」 「秘密ですよっ?」 「言ってもいー兄は気付かない気がしますけどね」 「……です、ねー」 拗ねたような声を出す彼女。 たっと僕の前に躍り出て、顔が見えないように背中を晒した。 「でも、姫ちゃんはそれでもいいんです」 「そう――ですか」 「このままこの関係が続いても、いいんです」 そういった言葉はたぶん真実なのだろうけれど、それはやっぱり事実を隠した真実であるようだった。 誰にもわからないぐらいに震えるその小さな肩に、僕はゆっくりと触れる。 「萌太君?」 そのまま振り向いた彼女の額に口付けた。 彼女は、何が何だかわからないような顔をしていた。 「萌、太……君?」 「願掛けですよ」 「へ?」 「姫姉の恋が実るように、願っておきました」 「あ……」 ありがとうございますっと大きな声が聞こえる。 これもまた――事実を隠した、真実で。 ぎゅ、と腰を掴まれる感触。 「姫姉?」 「姫ちゃんからも、萌太君の恋が叶うように、カン蹴りなのですよー!」 報われなくて――構わない。 それでもいい。それは、きっと、僕のためにある言葉なのだから。 そうして結局、ぼくたちはなにも手に入れられはしない |