「ふふふ。さすが物理的な組み立て解体において、右に出るものがいないだけはあるな」
「お前の言い方だと褒めてんのか褒めてねえのかちっともわかんねえよ兎吊木」
「失礼な。褒めてるぜ」



とあるビルの屋上である。
傍らには、恐らく重要だろう書類の山と、変態。


「気持ちよかったなあ。他の人間と壊したのは初めてだったが、うん、気持ちよかった」
「俺としてはエレベーター壊す必要が何処にあんのか不明だけどな……」
「追っ手を撒けるじゃないか」
「だから撒く必要ねえじゃねえか」



重要書類をなんということもなく掴むと、なにやら作業を始める兎吊木。



「何してんだよ……さっさと燃やして帰るぞ」
「そう急ぐなよ式岸。燃やすなんて勿体無い」
「……? じゃあどうすんだ」
「折り紙」
「まずお前から燃やすか?」


そんな言葉など気にも留めず、兎吊木は何かを完成させたようだった。



「ほら、紙飛行機」
「それ折り紙なのか……?」
「いいじゃないか。俺は紙飛行機を飛ばすのが得意なんだぜ」



そういうと無造作に、その白い物体から手を離す。
得意との言葉どおり、紙飛行機は遥か遠くへ綺麗な軌跡を描いて飛んでいく。



思わず、見蕩れた。



「……気はすんだか? 燃やすぞ」
「まあ、待て。俺に考えがある」
「何だ」
「エレベータ壊されて、この馬鹿に高いビルを必死になって駆け上がってくる人々。荒々しく開く屋上の扉。その瞬間空に舞い上がる重要書類。余りの喪失感と虚脱感に動けない人々。いい構図だ」
「最悪だな。後怒り心頭の人々。殴り殺される兎吊木。って描写をちゃんと入れろ。ていうかそんなこと考えてエレベータ壊してたのかお前は」
「殴り殺されやしないぜ。式岸が守ってくれるんだろう」
「誰がてめえなんか守るか」
「俺が帰ってこなかったら《死線》に怒られるぞ?」
「………………」




その場で殴り殺したくなった。



「ほら、噂をすれば足音がする」
「…………はあ」





結局、怒り心頭の社員有象無象を撃退して、二人がそのビルを出たのはかなり後のことだった。










果てしなく果てしなく、紙飛行機が飛んでゆく
(青い空に白い紙飛行機、嫌んなるぐらい青臭い構図だった)