部屋に帰った。後方で鍵の閉まる音がする。どうやらあいつも入ってきたようだ。
追い返したいとも思ったけれど、どうにも追い返す元気がないし何より一人になりたくなかった。
自分の心象ではたぶん恐らく、このままでは狂ってしまうだろうと思う。
奴もそう思ったのかどうなのか、饒舌すぎる唇は結ばれたままだ。


靴を抜いでフローリングの床の感触を、布越しに感じる。
完全にリビングに入ったところで、押し倒された。




「…………っ」



舌が絡まる。声が出せない――息さえ、出来ない。
最悪だ。最悪なのに何故か振り切れない。
答えは分かってる――きっとここで息をして声を出してしまったら、全ては叫びに変わってしまうのを自分は知っているのだ。
そしてその叫びを聞いた瞬間、現実を認識しなければならない事も。


それにはまだ早い。



酸欠になる寸前、口が離れて糸が伝う。
僅かに酸素を供給すると、そのまま舌を絡ませた。




「は……っ……」
「痛くするぜ」
「死ぬのが……怖くなるぐらいのに、しろよ」
「死にたくなるぐらいにしてやるさ」
「無駄だ、な」
「どうして」


「もう死にたい」


奴は笑顔で俺もだ、と呟くと、三度俺に口付けを落とした。





それは彼女との別離が決まった日の出来事。










叫ばずにはいられなかったんだ
(こうすることでしか自分を保てなかった)