「人……しき君」
「なんだ?」
「人識くんは……あたしのこと、好き……ゆら……なんですか?」




感慨もなさそうに、玉藻はそう言って身体を揺らした。




「んなわけねえだろ」
「です……よ、ね」



それから何故か楽しそうに笑った。
よくわからない、奴だった。





「えへへ」
「変な奴だな」
「今……たぶん、すごーく」
「何だよ」







「悲しい」








「は」


「なんて言ったら……ゆらぁ……ひときし君、焦ります、か?」
「んなわけね……いや、あるか。今割と焦った」
「そう、です……か」




玉藻は俺の腰に手を伸ばして、無邪気な風に全体重をかけてくる。




「私は、ひとしきくん、すき」
「………………」



思わず沈黙すると、楽しそうに続けられた。





「もっと、戦って欲しいとか、思ってた、り」
「戦って、ねえ。それ好きって言わねえんじゃねえか?」
「でも、死んで欲しく、ないん……です、よ?」





手に込める力が、さらに強くなった。




「これが好きだって、はぎらわ先輩が、言って……ました」
「よくわかんねえな。だったら、俺もお前が好きなのか?」
「どうです、か、ねえ」
「は……とにかく傑作だって事はわかったよ」
「けっさ、くー……? 人識、くん」
「なんだよ」





「すきって、言って」




顔が間近にあって、少しうろたえた。






「なんて」






そんな俺を見透かしたように笑って、手を離す玉藻。



結局最後まで、俺があいつにそう言ってやることは、なくって。










幾度でも愛を囁くと、誓ってあげられれば
(少しでも君は救われた?)