「お前も大概しつこいぞ、俺の敵」
「あなたにしつこいなんていわれたくありませんよ、狐さん」
「ふん……言うようになったな」

そう言うと狐さんは、くいっとお面をあげた。
精悍な顔つきをこちらに晒して笑みを作ると「飯でもどうだ」と言った。

「……一体何を企んでるんですか?」
「別に何も企んじゃいない。別に断ったっていい――そんなのはどちらでも、同じ事だ」



* * *




結局近くの和食屋に入った。着流しの狐さんは少しばかり目立っていたけれど、特に気にする風もない。




「皆さんは――元気ですか?」
「元気ですか、か。ふん……皆さんってのが誰なのかが気になるところだな」
「るれろさんとか、ノイズ君とかですよ」
「るれろはまあ、元気でやってる」
「るれろは、って」
「ああ。ノイズは――」




何でもないように呟く。





「死んだ」
「…………死んだって、何で」
「古槍頭巾が殺されたからな」
「……は……?」
「割に仲が良かったんだよ、あの二人は」
「後追い自殺、ですか」
「みたいなもんだろうな」


頭巾ちゃん。ぼくの所為で死んだ――女の子。


ノイズ君。君も、なのか。



動悸がした。
気持ち、悪い。





「お前が気に病む必要はないぜ俺の敵。あそこで死ななかったんなら別のところで死んでいただけのことだ。別れの来ない人間関係があるか。恋人だろうと友人だろうと親子だろうと、最終的に別離は約束されている」
「……ぼくはまだ、その考えを支持してませんから」




ジェイルオルタナティブ。バックノズル。
支持していない、というか。
支持は――出来ない。
それはきっと何かを――或いは誰かを――否定する事だから。




「支持してない――か。ふん……お前は何を思う?」
「何をって」



「お前の所為で人が連鎖的に死んでる過去に、何を思う」










「……何も、思いません」



思うところはあったけれど――言葉に出来ない。
この戯言遣いにとって言葉に出来ないならば、それはなかったのと同じ事だ。




「……ふん。成長したな。四年前のお前ならこれで随分揺らされたがな」
「人は――変わるものですよ、狐さん」
「小賢しい話だ」





狐さんはつまらなさそうに顔を背けると、再び呟いた。





「嘘だ」
「…………嘘って」
「ノイズは生きている」
「………………」
「そう怒るな。嘘でお前に怒られる覚えはないぜ、俺の敵」
「怒ってませんよ……人が死んだとか、そういう嘘吐かないで下さい」
「ふん……強ち嘘でもなかったんだよ」
「何が」




「心が死んでた」




「………………」
「そういう事だ」





その話はそれっきりで、結局何処までが嘘で何処までが本当か、ぼくは確かめる術を持たなかった。










約束された別離
(なんだかよくわからないけれど、少しだけ悲しい気分だった)