「……ん」



ちゃら、と言う鎖の音で、真庭喰鮫は目を覚ました。
微妙にぼやけた視界に、知り合いの顔が見える。









Sweet Nightmare















「ぺん、ぎん……?」
「お、おはようございます喰鮫さま」



同じ真庭魚組の頭領が一人、真庭人鳥だった。
人鳥はいつもどおり、気弱そうな笑みを浮かべている。



「こんな朝早くに――というより夜遅くですか――何か用なのですか?」
「え、と」




違和感。
少しだけ、違和感。






人鳥は、酷く純粋そうに笑った。





「ちょ……ちょっと、夜這いに」






「はい……?」








そこで体を起こそうとして――自分が動けないことに気がつく喰鮫。


ぱ、とようやく目を見開いた。



腕は大きく伸ばされ、頭の上で鎖にしっかりと縛られている。
その長い鎖の両端は、どうやら人鳥が持っているようで。





「人鳥……一体、」
「喰鮫さまだったら、こ、これだけでもちょっと不安、ですね……」




喰鮫を無視する形で、人鳥はそんな風に独り言を言うと――素早く、抵抗する間もないほど素早く、右手の鎖を右膝の裏に、左手の鎖を左膝の裏に通し、開脚させる形で腕に縛りつけた。






「これで大丈夫」






自分の仕事に満足したように呟く人鳥。
喰鮫は――そこでようやく、状況を理解した。





「何をしているのです、人鳥」
「き、聞こえませんでした? 夜這い、ですけど」
「夜這い、って」
「喰鮫さま、お互い大人なんですから、夜這いの意味ぐらい、分かりますよね」



童子にしか見えない男は、そんな風に言った。




「いえ、ですが――」
「……もう。細かいです」





人鳥は少しだけすねたように呟くと、喰鮫の寝巻きである浴衣の帯を取った。
不自然に足が持ち上がっている事もあり、浴衣が肌蹴て、白い肌が露出した。
冷たい空気にふれ、僅かに敏感になる素肌。
それを隠そうとはするものの、両手両足の自由が利かないこの状況では無理な相談である。
限られた自由の中、身をよじらせる喰鮫を、人鳥は楽しそうに眺めてから。






「……っ・・・・・・ぁ」





何の前触れもなく、喰鮫の陰部に触れた。
開かれた足をなんとかしようと、再び喰鮫は身をよじったが――巻きつけられた鎖が、その邪魔をする。
白い生足を更に晒させるべく、着物を捲り上げる人鳥。



喰鮫の下半身が、完全に外部に晒される。





「ぺ、人鳥――やめな、」








みなまで言えなかった。









「や……っあ……」





人鳥は性器に舌を這わせた。その間にそれぞれの手で、露出されたももをそうっと撫ぜる。
その平時ではこそばゆいだけの感触も、この状況では立派な快感で――





「喰鮫さま、腰があがってますよ」
「……っ……く」
「もっと、ちゃんと、扱って……欲しいんですか?」
「は……ぁ……っ」






息が陰部にかかる位置で、話される。
焦らすような弱い刺激が与えられるたび、喰鮫の呼吸を乱した。








「っこで……」
「?」
「そ、こで……話さ、ない……で……くだ、さ」
「そこでって……何処でです?」
「……ゃ……っ」







息がかかるたび、段々と固みを帯びてくる性器。
あわせて、体の反応も素直になっていく。







「も、もしかして――さっきから触って欲しいって、いやらしい汁を垂れ流してる――これの事ですか?」







指でつつかれ、反射的に腰があがった。
羞恥心からか快楽からか、頬を赤く染める喰鮫。





「触……てほしい、など……思って、は」
「ないんですか?」
「当た、り……前で」
「なら、いいです」






人鳥はあっさりとそういうと、顔を上げて立ちあがった。







「じゃ、じゃあ喰鮫さま……僕はこれで」
「え……?」
「お騒がせしました。喰鮫さまが嫌ならもうしません――大丈夫ですよ。そのままでも、いつかはイけるはずです」










「待っ……なさ」









本当に出て行こうとする人鳥を、思わず引き止める喰鮫。
笑顔で人鳥が振り向くけれど――後悔するには、遅すぎた。





「どうしたんですか? 喰鮫さま」



蕩けるような微笑。








「…………っ……」
「僕に、何か用……ですか?」
「っ…………く」
「言わないとわかりませんよ――一応言っときますけど、鎖は解きませんからね」





そういうと人鳥は、困ったように首を傾げた。






「ぺ……ん、ぎ……」
「仕方ない、ですね。今回、だけですよ?」






言うや否や。







「あぁ……っ」






完全にそそり立っている性器を、口に含む。
今までにないはっきりとした刺激に、卑猥な声が上がった。




「はぁ……んっ……」
「ん……」







感度のいい場所を、的確に弄る舌に、喰鮫は絶頂に達しかけるけれど――






「っ……!?」
「駄目ですよ喰鮫さま――一人で気持ちよくなったら」







寸前に根元をつかまれる。
苦しそうに声をあげる喰鮫。







「淫乱」
「ゃ……あ……」
「いえ、とっても綺麗ですよ……喰鮫さま」








安心させるように微笑みかけると、









「く……っ」










晒された孔に、その小さな指を差し入れた。
歯を食いしばって、喰鮫は進入して来た異物に耐える。







「まだ行けそうですね」
「やぁ……っ!」






ふるふると首を振った喰鮫を無視する形で、更に指が挿入される。








「ぃ……っ」
「淫乱な喰鮫さまには、もう一本」






間髪いれず、三本の指が収まって、内部をかきまわした。







「ぁ……っく……」
「力入れたら、自分が痛い、ですよ」







子供のように小さな人鳥の手では、敏感な場所に届かない。
求める快楽が与えられず、体は意思と裏腹に、ねだるような動きを始める。
その様子を見て、諭すような口調で人鳥が言った。






「喰鮫さま……言わないと、わかりませんよ?」
「……ぺん、ぎ……んっ」







既に喰鮫の瞳には、涙が浮かんでいる。










「お、ねが……い……」
「……僕も、甘いですよね」








孔から三本の指を引き抜いて、有無を言わせずその孔に自身を挿入する。








「は……ぁ……っ」
「だから……力抜かないと、痛いのは喰鮫さまですよ」








腰を動かすたび、喰鮫の体が反り返った。
段々とその間隔は短くなり、段々と奥までついていく。








「く……ぁ……っ」
「もうそろそろ、限界ですか?」








挿入された性器が、前立腺に触れたところで――












「ぁあ……っ!」









絶頂に達すると共に、喰鮫は意識を手放した。











* * *











朝。



「……なんて夢を見ているのですかわたしは」







目覚めた喰鮫は、そんな風に溜息を吐いて額に手をあてた。






「欲求不満なのですかね……ん?」








瞳を開いて自らの腕を見れば。





その細い手首にははっきりと、鎖の痕がついていた。