「お。お帰り、アス」



そう言って振り返った男の眼前で扉を閉める。
無駄だとわかりつつ、閉じた扉の前で深呼吸。
十秒数えてドアを確認、もう一度息を吸って、部屋に入った。
入った瞬間、溜めていた叫び声を吐き出す。












「お前何してんだっちゃ!」





Ghost Geist






双識の髪は、いつもの黒いオールバックではなかった。
ポニーテールである。
それは勿論、大の大人がポニーテールしてようとなんだろうとちっとも構わなかったけれど。
そもそも良く似合ってはいたし。


問題は、色だ。





青。






鮮やかにも程がある、青だった。










「あーこれかい? 兎「もういいわかった皆まで言うな!」










一文字だけで主犯が確定された。
あの悪趣味兎野郎に違いない。



よく見れば瞳まで、いつもの赤ではなく青だった。


やべえ。念が入ってる。








「……あんの野郎」
「ふん? 喜ばないね」







双識はつまらなさそうに唇を尖らせると、なにやら懐からメモを取り出した。






「えっと。ああ、そうだ」








そのまま軋識の方を笑顔で向くと、











「『ぐっちゃん』」
「…………くっ」
「『ぐっちゃん』ー」
「ぐ…………」












殺し文句を吐いた。
殺人鬼の殺し文句は効果絶大だった。



軋識は黙って床に手を突くと、湧き出てくる衝動に耐える。
なんか色んなものに負けた気がした。


そしてたぶん、勘違いでは、ない。







「……大丈夫か?」
「大丈夫、だ」







たぶん。

先程から自分の気持ちに少しも自信がない。






また一息ついて覚悟を決めると、双識の方を見つめた。
そしてその、蒼いコンタクト越しの瞳が――少しだけ寂しそうなのに気がつく。






「……はあ」





軋識は大儀そうに立ち上がると、双識の方に近寄り、叩き落とすような勢いで蒼いウィッグを取った。








「……怒ったかい?」
「呆れてるっちゃ」








蒼い瞳が見えないように、のしかからんばかりに抱きしめる。
小さく、痛いよ、という声が聞こえたけれど無視を決め込んだ。









「もっと、ちゃんと、安心しろ」
「……うん。ごめん」
「いや……悪いのは俺だっちゃけど」










最早語る必要など感じなかったので、声が出ないように力を強める。
今度は抗議の言葉はなく、ただ、ゆっくりと背中に手が回るのを感じた。












* * *














『や、街。俺からのサプライズは楽しめたかな』
「お前マジでさっさと死ね。今すぐ死ね。生きてるだけで害悪だこの細菌野郎」
『おいおいご挨拶だな。本当は少し嬉しかったくせに』
「黙れ。あと一つ言っとく」
『何だ?』








「軋双は断じて常に蒼街前提じゃねえからな」















『……ごめん』










兎吊木垓輔、最初で最後の謝罪だった。