漏れる加虐的な微笑を、隠すように手を口元にやる。 見慣れた鎖がそこには巻き付いていて、その先は一人の男に繋がっていた。 目の前に男の体が密着しているという、随分と親しげな位置関係だったけれど―― そんな温い人間関係では、決してなかった。 「……か……っは……」 苦しげに漏れた声が耳に届く。 それに誘発されたように鎖を引くと、男は僅かに身体を反らした様だった。 必死に何かを保とうする、その姿勢がまた鳳凰を煽ることに、どうやら気がついていないらしい。 それがまた滑稽で、鳳凰は再び笑んだ。 「……っ……く」 鬱陶しい髪ごと首筋に舌を這わせると、濡れた声を出すまいとしたのか男が唇を噛むのがわかる。 視覚の遮断される状況下、大したものだと素直に感心した。 その感心は随分と――下に見た感心の仕方だったけれど。 「不の文字を冠したと言えど、元はしのびという事か――?」 「っ不――」 噛んでいた唇を離し、抗議の声を上げようとした男の口に迷わず指を入れる。 生暖かい感触が気持ち悪い。 身勝手な感想を持ちながら、口内を犯すように更に中へと侵入した。 「『不当』――とでも言うのかな。今のおぬしの流儀からすれば」 「………………」 答えがないのは当然である。 答えられないのは明白なのだ――物理的な問題で。 その代わりなのか、只単に鳳凰の手が抗える位置に来たからなのかはわからないが、男は己の口内に入る異物を迷いなく噛んだ。 恋人達の逢瀬の甘噛などとは、とてもではないが形容できない、強い噛みつき。 あわよくばこのまま指を喰い千切らんとする迫力である。 ちゃり、と音をさせて更に締め付けを強くすると、男の歯にも力が入った。 代わりのように耳を甘噛すると、震えた男の肩には気付かない素振で――言葉を紡ぐ。 「指がなくなれば――おぬしの大事なひめさまの指でも、とってきてつけるとするかな」 「っ…………」 明らかな挑発の台詞に、一瞬だけ噛む力が弱まる。 その間に、口から漏れる唾液が指を伝って外に落ちた。 粘りつくような液体に塗れた指を口から出すと、僅かに動かし猥雑な音が鳴る。 今更それに恥らうほど青くもないが、破れた衣服の隙間から、すらりとした上半身を撫でれば頬が上気するのが目の前で分かった。 男の唾液で汚れてしまった指を清めるように、わざと音をさせて丁寧に舐める。 実質的に触覚と聴覚でしか世界を感じられない男は、そう見せないように気を張りつつも音に体を強張らせた。 「『不感』、とは言えないようだな」 「生理……的な、現象で……っ!」 みなまで言わぬうちに、鎖を扱い首を締める。 持ち上がった顎に湿った指をあて、そのまま黙らせる。 「さて――おぬしの事は我の知るところではないが」 「ぁ……ぐ……っ!」 腕に力を込めながら、口調はあくまで冷淡なままで――そっと、絶望させるように呟く。 「何処まで持つかな?」 返事はなく、ただ男が再び唇を噛み締めたのだけが、わかった。 不 協 和 音 は 留 ま ら な い 月影クラウン様・グリフ様・八月一日様・夢水秋香様へ ……エチャ参加者フリーにしてみましたよ。 ちなみに元ネタは月影クラウン様の美麗絵です。 普通ここでリンクを張ればいいんですが、いかんせんこれをあの絵と並べるのはおこがましすぎやしないかと! すみません、表現力には限界がありました……! でも男に二言はないので書きました。女だけど、ってつっこみはもうやったので自粛します。 石投げられたらクリステさん並の精神で耐え抜く覚悟です。 良かったらお持ち帰り下さい。 その際、ここの文章は削っていただきたかったりします。 |