「……おや皆さん」 「何くつろいでんだよ!」 一気に四人発見。 喰鮫・川獺・狂犬・蜜蜂。 「ていうか喰鮫どのはここにいちゃいけない役な気がするんだが……」 「わたしは自由を掴むのです」 「なんか格好いい事言ってんじゃねえよ!」 「鳥人」 「は、はい」 「なだせ幸、てっるいがミコッツ」 人鳥は少し驚いたような顔で白鷺を見つめてから―― 「はいっ」 極上の笑顔で、そう言った。 「小説のシメみたいにしてんじゃねえよ! お前らの幸せって何なんだよ!」 遅れたけれど、状況説明。 豪奢なドレス姿で、手には扇子と鞭を携えている喰鮫。 「あ、それあたしの永劫鞭!」 「お返しします」 皿を投げられる前に返す喰鮫だった。その手には『女王』。 「……ある意味ぴったりですよね」 苦笑するように呟いた蜜蜂は、白鷺と同じベスト姿だった。ただ、色の基調はモノクロはなく茶黄調だ。 手には『三月うさぎ』と書いてある。 「間仲ぎさう?」 「何の仲間よそれ」 狂犬は、頭に大きなシルクハットを載せている。手には何故か湯のみがのっていて、『帽子屋』と書いてあった。 「帽子屋って……職業?」 「役柄につっこむのは止めようぜ……ふわ」 いいながら欠伸をした川獺は、茶色の燕尾服姿だった。酷く眠そうで、手には『ヤマネ』。 「とりあえず皆さん、お茶でもどうぞ」 「やけに場にそぐわない茶会だよな……」 森の中に赤い敷物がしいてあり、本格的な茶道の道具が置いてある。 「で、でも……鳳凰さまと海亀さまが」 言われて、人鳥を見つめる喰鮫。 「……ふふふ」 怪しげに笑うと、人鳥に抱きついた。 「またなのかよ!」 「何だか浪漫を感じる格好ですねえ。いいですね、いいですね、いいですね、いいですね」 「きゃはきゃは、ありすモテモテじゃん」 「た、確かに可愛い格好ですよね」 繰り返そう。 人鳥は只今、青いエプロンドレス姿である。 「なんだかこのままでいい気がしますねえ」 「い、いや喰鮫さん、それはちょっと……」 「まあ、のんびりできていいわよね」 「観光気分!?」 「……ぬしら、何か聞こえぬか?」 「え?」 蟷螂に言われて耳を澄ませば、確かに妙な音がする。 まるで誰かが――泣いてでも、いるような。 「ぼ、僕見てきますね!」 喰鮫の腕から脱出するべく、積極的に言い出す人鳥。 とてとてと走り去る後姿に、和む一同。 音のする方向に人鳥が行けば―― 「若い容貌、って何回も言われてるのに何で我は中年なんだろうな」 「……それをわしに言うのか?」 「……すまない」 「いや、いいがな……それよりなんだこの偽海亀って。誰がニセか! わしは本物の海亀だ!」 「我などグリフォンだぞ? 伝説繋がりとか苦しすぎるだろう」 中年二人が愚痴大会をしていた。 「「誰が中年だ!」」 「え、ええ? ぼ、僕何も言ってないです……」 「人鳥!?」 「……すまない。今妙な声が聞こえたものだからな」 二人はいつもと同じ、しのび装束である。 手にはやはり、『にせ海亀』と『ぐりふぉん』と書いてあったけれど。 二人は、少し怯えている人鳥を見た。 そして―― 「…………ほ、鳳凰さまっ」 抱きついた。本日三人目。いい加減マンネリだけれど、まあそれはそれ。 エプロンドレスの魔力だった。 「なんか、こう、ほら……ああ、ぴったり来る言葉が無い……」 その感情は将来的に萌えという単語になる。 「ほれ、その辺にしろ鳳凰」 「む……」 名残惜しそうに人鳥を放すと、鳳凰は言った。 「おぬしは一人か?」 「い、いえ……皆さん向こうにいらっしゃいますよ」 * * * 「……ここは何処か。どうやって里に帰るのか。それがとりあえずの議題だな」 真庭忍軍全員集合。頭領会議が始まった。 「皆集めたらどうかなるかと思ったんだがな……何もおこらないし」 「そもそも、元ネタだと思われる『不思議の国のアリス』とかいう話も、特に目的のある話ではないらしいですしねえ」 「あれ? あの話って女王倒すのが目的じゃないの?」 「……物騒なこと言わないで下さい狂犬。標的が私に向きます」 「白兎は捕まえても何にも起こらなかったしね」 「人鳥の夢だった、っていうのは?」 「さ、さっき試しましたけど……駄目でした」 「ていうかそもそも、人鳥はここに来るまでその話を知らなかったんだから、そんな夢が見れるわけねえんだよな」 「それもそうですよね……」 「わからんのう……気付けばここにおったし」 「それは皆同じだっつの。だろ?」 「なだ」 「とりあえず聞いてくれ」 益体のない会話に、鳳凰が発言する。 「ここは、所謂異世界なのではないか?」 「異世界?」 「ああ。我らのいる場所とは別次元の空間。何らかの要因があって、我らはそこに来てしまったのではないか」 そこまで聞いて、各々考え込む一同。 「ほ、鳳凰さま……で、でもそれがわかったら、どうにかなるんですか?」 「………………」 沈黙。 どうにもならなかった。 「いや。どうにかなるかもしれぬぞ」 次に言うのは蟷螂である。 「仮にここを異世界だと仮定するならば、世界ごと破壊してしまえばいい」 「せ、世界ごと破壊って……」 「荒療治だが、やってみる価値はあるのではないか」 「一理あるけど、一体どうやるのよ」 「これだ」 蟷螂が取り出したのは―― 「キノコ?」 「何故わたしがこんなものを持っているのか不思議だったが、蝙蝠の話を聞いて合点がいった」 「コノキ、なよだんてっ持が虫芋やいうそ」 「質量を無理に増やして空間を決壊させる」 「……つまり、そのキノコを食べて、誰かが大きくなるということですか?」 「そうなるな」 「……え、だが蟷螂どの。そんなの誰が――」 といいかけて、蝶々は口をつぐんだ。 皆の視線が、一人に向く。 「ぼ、僕ですか……?!」 「やっぱアリスだしな」 「やっぱアリスですよね」 「うん。アリスだ」 「……人鳥、嫌ならいいんだぞ?」 「蝶々さま……」 自分を慮る言葉に、逆に決意を固めさせられる人鳥。 北風と太陽では、太陽が勝つのだった。 「ぼ、僕……や、やや、やります……」 そう宣言すると、人鳥は蟷螂に向き直った。 蟷螂は人鳥に、持っていたキノコを渡す。 人鳥は目を瞑り、それをぱく、と食べて―― 「るれさ潰るれさ潰、ょち!」 「きゃはきゃは、逃げろー!」 「本当に大きくなるのだな」 「蟷螂さんっ感心してる場合じゃないですよ!」 「ふふ。人鳥、立派になりしたねえ」 「立派になったとかじゃねえから喰鮫どの! 鴛鴦、逃げるぞ!」 「わ、わかってるわよ!」 「……逃げるか」 「そうじゃのう」 ぐんぐんと大きくなる人鳥。 避難する頭領一同。 「あ、川獺がいない」 蝙蝠が呟いた瞬間、ぱんっと何かが爆ぜた。 * * * 真白な空間。 自分の着ている服が分解されていく感覚。 同時に、元のしのび装束が構築されていく。 ――うふふふふ。 ――どうだった? 楽しかったかな。 その時人鳥は ――また遊びましょうね、アリス。 確かに、物語の声を聞いた。 * * * その後。 「じゃーん! 鴛鴦に頑張ってもらいました!」 「そ、それは……」 蝙蝠が楽しそうに見せたのは、見覚えのあるエプロンドレス。 人鳥の身体は既に退避状態である。 「さあ! 着るのです人鳥!」 「い、いやですー……!」 追いかけてくる二人(とエプロンドレス)から必死に逃げる人鳥。 それでも。 やっぱりこちら側の方が楽しいなあ、と思ったりして。 -了- 「……って俺の出番はぁ!?」 蝙蝠との口調被りのお陰で気づき難いですが、今回初めの一回しか話さなかった川獺さんの叫び声は、誰にも届きませんでしたとさ。 今度こそ -了- うふふふふ(怪しい) なんとなんと、クロコ様がアリスパロでイラスト書いてくださいました。 クリックしてどうぞー! 頂き物・アリス絵 |