「あ、さか、また?」 「流金様。手前に何か」 「お願いがあるっちゃ」 「はい」 「お、教えて欲しいんやけど」 「はい」 「えと、何ば言えばよかかね……」 流金の「子作りの詳細、みたいな?」と言うぼかした表現の後「……性行為の事ですか」という流れを無視した返答。 互いに顔を見合わせて、赤面。 「……事情、話させておくれやす」と、結局こういう運びになる。 【アンバランスペトレ】 「性教育、でございますか」 「……そうなんだべ」 花も恥らう十六歳、何処となく虚空に視線を反らしながら流金は言う。 目の前に正座して座る逆叉は、対照的に畳の目を只管に眺めていた。 「蛞蝓が、小さい頃からちゃんとそう言う事教えるのは悪いことやないっち言うし……まいちゃんまで同意するけん、そうだべかなと思って」 「はあ」 「ていうかここでまかり間違ってあの子らが蛞蝓みたいになったら嫌で……見てる分は美味しいけんど……」と微妙に本音を漏らしながら、続ける流金。 「ばってん、うち、そういう経験ないっちゃから」 「……それで手前に、ですか」 「逆叉なら経験あるばい? ていうか忍軍でそういう経験ない人間少ない気、する」 「確かに経験はございます。一通りの作法も仕込まれて、おりますし」 また気恥ずかしい沈黙がある。 「うー……やっぱり自分の事になると恥ずかしいの……」 「しかし、それで何故この運びになるのか手前にはどうにも」 つい、と動いた逆叉の視線の先には、布団が一式引いてあったりした。 「やから、あの……だってやり方も教えないと『まあ別に構いませんがね、妾が特別講師として参りますから』とか言うから! 大事な子供らにそんな目に合わせる訳にはいかねえや!?」 「……よく存じないのですが、性教育とは詳細まで教える物でしたでしょうか」 「うちも今まで教えた事ないからよくは知らんぜよ。ただ、そう言っとったし」 「何方か他の方に任せては駄目なのでございますか」 「『幼等部教育担当さんが無理なら是非妾が講師として』……逃げ道は塞がれてん……」 「お疲れ様でございました」 「……ありがとさ」 そこで溜息を吐いて、流金は「素面は互いにきついかろて」と言いながら徳利を前に出す。 酔った勢いでやればいいものでもない気がするが、のっぴきならない状況らしい。 「……流金様からどうぞ」 「逆叉からでいいべ?」 「手前はとても弱いので」 「なら頂くわ」 時代は遡って、最期の戦場に向かおうとする武士の如き神妙な顔つきだった。 ぐいと大きく煽ると、一息つくように徳利を畳に置いて促した。 そして流金に促されるままに、一礼して唇をつける逆叉。 「逆叉、何で男の童貞は蔑称やのに女の処女は敬称ですらあるんかな」 「恐らく、一度も城攻めに成功した事のない兵士と、一度も城攻めを成功させた事のない城を比べるような物だからだと思われます」 「……成程。ところで何か最近やけに――で――な人間増えとる気がするんだべが、気のせい? あ、まあうちは嬉しいがね」 「手前はよくわかりませぬが、流金様がそう仰られるならそうなのでしょう」 そんな危ういところを行ったり着たりついたり掠ったりする会話を交わしながら。 * * * 「逆叉、酔ってる?」 「よく、わかりません……申し訳ありませぬ」 「別にい……っ!?」 緩やかに、鎖骨に唇を落とされた。 不意討ちの行動に思わず身を竦ませると、優しく頭を撫でられる。 「酔ってる?」 「わかりませぬ」 酔っているのだろう。 表情はいつもと変わらないし、頬も少しも高揚してはいないようだけれど。 「……よろしいでしょうか」 「頼む、な」 「お言葉に添えますように」 失礼致します、と言って唇が重ねられた。 体温が上昇するのがわかる――心臓が酷く、鳴っている。 舌がゆっくりとずらされていき、頬を通って首筋に至った。 べろり、と舐められた瞬間、身が竦む。 体温の低い指が、開いた胸元からそうっと中に忍ばせられる。 遠慮するような動きが何処かじれったい。 「っ……ぅ……」 「大丈夫ございましょうか?」 「ぃ……じょ、ぶっ……から……っ!」 行為それ自体よりも、こんな事をしてしまっているという状況に、神経が昂っていた。 何だか妙な心地が、する。 不愉快というのではないが――何か物足りないような。 何故か、無意識のうちに足を擦り合わせていた。 痛くない様にと緩慢な動作で揉みしだかれた胸は、冷たい掌の中で水のように形を変える。 「ぁ……ん……っ!」 本当に、変な気分で――体が上手く言う事を聞かない。 まるで操り人形か何かのように、彼女の手の動きにびくびくと反応する。 傀儡は、相手の二つ名の筈、なのに。 「っ……は……ぁ」 「流金様」 促されるままに、背中を預けた。 肩で息をしている自分を落ち着かせるように抱きしめられる。 柔らかい感触が後ろにあって、それが何なのか考えるとやけに恥ずかしくなった。 「大丈夫で、ございますか?」 他意はないのだろうが耳に息がかかって鳥肌が立つ。 反動で頷いて、肩に腕を絡ませた。 視線が合わさ、る。 「ゃ……っ」 脚を這う指を感触。 ゆっくりと腿を撫でる動きは段々と範囲を広げ、衣服の内側にまで至る。 下着の上から割目を撫ぜられると、指にあわせるように腰が浮いた。 「失礼致します」 するり、と難なく内側に入り込んだ指はゆっくりと動き始める。 「っ……う……!」 直の衝撃は不愉快というよりただの悦楽で。 時折聞こえる水音のような物は何なのだろう、と少しだけ思った。 ただ体が密着している所為で、自ずから伝わってくる女の匂に思考が麻痺する。 やけに熱っぽい雌のそれは、決して良香ではない筈なのに何故か惹かれた。 つう、と腿の内側を何かが伝う。 「さ……かま、た……っ」 「――安心してくださいませ」 「ぅ……あ……っ」 空いていた方の手が再び胸へと移された。 全身に快楽が回り、意識が朦朧と、する。 心なしか瞼も重たい、ようだ。 「っ……ぁあ……!」 がくがくと足が震えて、腰が持ち上がるような痙攣があり。 その後すぐに意識はかき消えてしまった。 * * * 「……と、言う訳で性教育は仕方まで教える必要はないのでございまする」 色んな者から事情を聞いた末。 流金が何やら(悪意ある作為による)勘違いをしているのではないかと判断した水母は、一応ながら忠告に来ていた。 目の前にいる我らが副頭領は、顔を赤くしたり青くしたりしている。 やはり勘違いしていたか、何か起こる前に言えて良かったと思いながら、悪意ある作為を施した男を思い浮かべる。 ……後で何をしてやろう。 「あ、そ、そうなんっ!? う、うちてっきり」 「悪いのは流金ではないでございまするよ」 「う、あ……」 かくん、と首を落す流金。 年頃なのだからこの手の話題には色々と思うところもあるのだろう、と。 まあ男の自分に言える事などないだろうし、逆叉――は役に立たないだろうから、儒艮辺りにでも相談しに行けばよい。 そう思いながら軽く挨拶をしてその場を離れて。 だから彼は、その後へたり込んだ流金の呟いた言葉を聞くことはできなかったのだけれど。 互いの為にはそれが十全かも、知れなかった。 ――――――――――――――――――――― 樫元こはだ様宅の流金ちゃん、夢水秋香様宅の水母さんお借りしました。 蝸牛さん、蛞蝓さん、儒艮さんはお名前のみ。 ……ごめんなさい、何がごめんなさいってとっても楽しかったんですよ書いてて…… ちょっと海豹君辺りに爆死させられてきます(汗) ちなみにこのネタ思いついた切欠は、その昔人権擁護法案が話題になった時に友人とした 「えろ漫画規制入ったら皆やり方わからんくなるやろうから、学校で実演したりするんかな……!」 「するわけあるか!」 という下らない会話だったりします。すみません。 |