【不確定要素決定論】





「……ついに来たのだな」
「ついにって何だ! 他に言うことないのか!」
「さすが下等生物は女になっても貧相な体をしている」
「ほっとけ! 豊満な体でも困るだろうが!」


真庭の里で、最近まことしやかに囁かれている噂がある。
それは、なんと言うか――朝起きたら性別が反転する現象が起きている、とか。
しかし実際になった人間は出て来ないから、下らない噂の類だろうと高をくくっていたのだ、昨日までは。

ああ、昨日までは、だ。


「っ……ふ」
「笑ってんじゃねえ!」


発せられる声は、心なし柔らかくなっているように思える。
体の線は滑らかになっているし、あるはずのない膨らみが胸にあった。
そして理解する、噂は本当だったのだ、と。
ついでに確信したのは、当事者が出て来ないのは名乗り出るのも嫌だったからに違いない、という事。



「しかし何だ。私様に見せたかったのはわかるが、それ以前に解決法を探るべきではないのか? それともそのままでいたいのか」
「そんな訳あるかっ……!」


正確に言えば、こうなってしまったのは昨日の朝。
それからすぐに某医療責任者の所に助けを請いに行くと、多分一日で元に戻ると追い返された。
ばれないように一日部屋に篭って過ごしたのだが、今朝になっても全然戻らない。
再び訪ねていくと「もしかしたら」と、切り出されてしまい、今ここに来ている。


そういう話の大筋を夜鷹に伝えると、首を傾げられた。



「私の下に来れば戻るといわれたのか?」
「……まあ、な。その可能性は高いってよ」
「よくわからぬな。何故私様なのだ?」
「知らねえけど……」


正確に言えば名指しされたわけではないのだが。
夜鷹は自分を馬鹿に出来るのが心底楽しいと言う風に、笑った。


「よし。脱げ、下等生物」
「はあ!?」
「こんな機会は滅多にないぞ? 私様が直々に見てやる」
「こんな機会って……」
「心は男なのだから問題ないであろう。それとも心まで女になったか?」
「んなわけあるかっ」


売り言葉に買い言葉だった。
気がつけば自分の上半身は裸で、少し動くだけで僅かに揺れる房が鬱陶しい。



「……本当に女なのだな」
「だから悩んでんだよ」
「で、私とこうしておれば元に戻るのか?」
「いや……その」
「その?」
「途中まででも、いいらしいんだが」
「早く言え。貴様足りないのは頭だけだと思っていたが、言葉も足りないのか」


「……性交、しろって」




耳が熱くなっている。
夜鷹を見ると、一瞬いつもからは考えられない程呆けたような顔をして――こんな場面でなければ思いっきり馬鹿にできるのに――顔がどんどん、赤くなった。



何をやっているのだろう、自分たちは。





「せい……?」
「せいこう」
「成功?」
「違う」


要するにヤれって事だよ、と言うと蹴りが飛んできた。
しかしいつもに比べると随分腑抜けた攻撃である。



「な、貴様っ」
「照れるな! 言ってるおれが一番恥ずかしいんだよ!」
「て、照れてなどいないっ! 何故私が貴様などの言葉で照れねばならない!」
「そういうのは自分の顔の色制御できるようになってから言え!」
「下等生物が何を言う! 貴様の方が真っ赤だろう!」
「貴様の方がっておまえも赤いの認めたな!?」
「み、認めたわけではないっ」



不毛な会話だった。



「……元に戻りたいんだよ、おれは」


何だこの体。
女性性を差別するわけではないが、酷く屈辱的だ。

目の前の男は顔を真っ赤にしながら暫く思考してから、


「あ……ぅ……っ!?」


晒された乳房に口付けてきた。


膨らみの頂点にある突起を包むように舐めて、ついばむように吸われる。
その度に下半身にむずがゆいような感触が合って、段々と湿るのがわかった。


「ぁ……んっ」



秘部から特有のにおいのする液体が零れ、膝を伝う。

熱くなっているのがわかる息を吐き出したところで、胸の感触が消えた。




「……止めだ」
「はっ……ぁ……?」
「何故私が貴様のような下等生物の為に尽力せねばならんのだ。そもそも貴様の問題だろう。はあ、私様の心の広いのにも困った物だな」



貴様がそんなに嫌ならば、この高貴な体を貸してやらんこともない。
顔を背けたまま夜鷹は言う。



「しかし本当に、何故私なのだ……これから何人も押しかけてくるのではないだろうな」
「それ、は……ねえ、よ」
「?」


真庭夜鷹の元に行けと、名指しされたわけではない。
自分にとっては彼だったと、それだけの事だ。



「好きな奴のところに行けって――言われたん、だから、」



乱れた呼吸の途中でそこまで言う。
相手の顔は見えなかったし、なんと言い返したかもわからない。
その時、互いの唇は繋がっていたの、だから。










――――――――――――――――――



季吟様宅から夜鷹さん、夢水様宅から海象君お借りしました。
にょた第二だ……いえもう本当ごめんなさい……!
ていうかこれ海夜ですか。夜海ですか。
不愉快でしたらすぐおっしゃられてください、これ消して平身低頭謝罪します。