【君に触れたまま清純な妄夢を見る】 やましい事など何も無かった。 弁解のつもりはない、言い訳でもない、ただ事実を述べているだけだ。 その晩彼の部屋に行ったのは何となくで、そこに特別な意味などない。 いや、もしかしたら、本当にもしかしたら彼の顔が見たかったとかいう理由だったかもしれないが、あくまでそこまでの話である。 着替えの最中に遭遇するだろうとか、そんな不純な思いを抱いてその扉を開いたわけでは、断じて―― 「いつまで硬直しておるのだこの下等生物! 早く戸を閉めろ!」 「あ、ああ、悪いっ」 「何故貴様も中に入るのだ……っ」 「うあっ!?」 「もういい戸を開けるな!」 仕方がないので、彼に背を向けたまま座り込む。 あれ、でも別にそこまで敏感になる必要はないんじゃないか、と。 男同士で過剰に反応すると逆に何か怪しい気もする。 ――怪しい? いや、何がだ。 「ふん……貴様に人の部屋に入る時に声を掛けるというような良識を求めるのは不可能だったようだな」 「声は掛けた」 「掛けてから入るまでが早すぎるのだ」 「それは……悪かった、が」 だが、一応来ることは伝えてあった筈だ。 「来るって言ってんのに着替えるお前もお前だろうが!」 「来ると言われたから着替えていたのがわからないのか下等生物!」 「は?」 「…………」 「それ、どういう」 そこで思わず振り向いて、 「ま、まだ向くな……っ」 ばっちりと、目に入ってしまったり。 「な、何でおまえ文句言う前に着替えてねえんだよ! 優先順位間違ってんぞ!」 「う、うるさいぞっ! 何故私様が貴様などに遠慮せねばならんのだっ!」 「それおれを馬鹿にしてるように見えて何気に自分も巻き込んでるからな!?」 「うるさいっ! 大体何だ貴様は! 夜分遅くに訪ねるなどいやらしいにも程がある!」 「いやらしいって何だ! 大体おまえ少し、否かなり自意識過剰だぞ!? 男同士だったら着替え見ようが夜遅く尋ねて来ようが問題ないだろうが!」 「男同士だろうが女同士だろうが好いている者が夜分に訪ねてきて問題ない訳ないであろう!」 再度、硬直した。 夜鷹の姿が、そこで漸く網膜に見えてくる。 先刻まで叫んでいた所為か頬は高揚していて、朱でもさしたかのように赤い。 額宛も取れて、完全に下ろされた少し巻きがちの髪が仄かに光っている。 その髪の隙間から見える肌は白く、やけに艶かし、い。 「っ……」 反則だ、と思った。 「夜鷹」 「なん、だ……っ」 「全面的におれが悪かった」 「なっ」 彼は目を見開いて驚愕を示し、それから漸く「当たり前だ下等生物が」といつもの調子で呟いた。 「こっち来い」 「何故私様が。貴様が来れば良い」 「……本当おまえ」 可愛くないよな、と言うと、酷く泣きそうな顔をされる。 だからそれが反則だと言うのに。 言ってないけど。 「下等生物の分際で私に何を言う。そもそも可愛い可愛くないなどと――」 最後まで聞かずに、自分から歩み寄る。 自分が命令したくせに、夜鷹は小さく肩を震わせた。 ああ、だから、 「……私様を見て欲情でもしたか、下等生物」 「何でそうなるっ!」 「は、ならば得意の寂しがりでも出たのか?」 「寂しいとかそんなんじゃ、ねえ、よ」 お前だからだよ、とその言葉は果たして聞こえたのだろうか。 そっと伸ばして触れた頬は酷く熱を帯びていたから、もしかしたら聞こえていたのかもしれない。 * * * 「……っ……く」 「声……っ出せ、って」 唇が切れる。 そう言うと尚の事歯を食い縛るものだから、無理にこじ開けて舌を捻じ込んだ。 くちゅくちゅと言う、唾液の混ざる音。 時折混ざる荒い息が、淫猥さを引き立てていた。 白い肩を撫でていた手をゆっくりと下ろしていく。 身体を確かめるように愛撫を繰り返すと、瞳が潤んでいるのがわかった。 僅かに零れた涙を舐めとり、下肢へと手を伸ばす。 「っや……ぁ……!」 「……っ」 熱を帯びて力を得ているそれを扱うと、それまで畳に押さえつけるようにしていた手が背中に伸びてきた。 触れるたびに力がこもり、爪が強く食い込む。 だけれど以前よりも痛みが少ないのは、伸びていた爪を彼が切ったからなのか。 それとも以前より、自分が、彼の事を。 「あ……ぅ……っ」 先走りが絡みつく指を後方に回し、僅かに挿入する。 それだけで彼は苦しそうに顔をしかめ、そしてその表情に偽りなく、指を締め付けていた。 あえて奥には入れず、慣らすように指を動かしていると、もどかしそうに腰が動く。 「ん……っ」 少しでも楽になるようにと再び唇を押し当てて、その隙に奥まで差し入れた。 下肢の筋肉が一気に硬直するのがわかり、回された手の力も強くなる。 「はや……くっ……ん」 言葉に誘われるままに、動かしていた指を抜いた。 弛緩した全身を抱きとめるように支えて、膝を割る。 「入れる……ぞ……」 「せ、うち……っ」 何もされていないのにも関わらず、既に熱くなっている自身を宛がった。 怯えたような肩の動きを無視する形で、ゆっくりと入れていく。 「っ……あ……!」 「く……」 感じる締め付けは酷く強い。 それは拒絶なのか、それとも逆なのだろうか。 そんな下らない思考は、次の瞬間に白濁してしまい、 直前に見えた整った顔が示していた感情を見て、どうでもよくなってしまったというのが本当かも、しれない。 ――――――――――――――――――――――― 季吟様宅から夜鷹さん、夢水様宅から海象君をお借りしまし、た。 えと。えーっと。ははは(笑って誤魔化した) ……すみませんでした。 しかしここまでツンとデレが綺麗に二分されてるツンデレも今日び珍しいですよね。 私は楽しかったんですが、色々問題があったら言ってください。 |