「日計……なの、な?」
「そうだよっまいちゃん!」
「何で女になってるのな!?」




【青い果実・赤い果汁】






「その辺は割愛ー」
「割愛するななのなっ! まさかおれのっ!?」
「そんな事はどうでもいいじゃんっ」
「貴兄は自分の性別が反転しても気にならないのな!?」
「気にならないよ?」



だってどうあっても己は己だよ、と日計は言う。
確かにそうかもしれないが、そういうものなのだろうか、と思わなくも無い。


「それよりまいちゃん、その前にやる事あるでしょー?」
「やる事って何なのな……ていうかその前に、俺の上からどくのな」
「駄目だってば、だってこれからやる事しないとっ」
「やる事って何なのな」
「性行為?」
「げふっ」




噴出すのに一拍。
立て直すのに一拍。
気合を入れるのに一拍。
合計三拍の後、叫ぶ声が響いた。




「何でこういう時にそう言うこと言うのなっ!?」




考える事もやるべき事も他にあるだろう、色々。




「だって折角己女になれたんだよ? 何時戻るかわからないから、戻る前にやろうよ」
「貴兄に男としての矜持だとかはないのな!?」
「己の矜持なんてそれこそどうでもいいじゃん。己はまいちゃんが愛せればそれで幸せなんだからさっ」




――どうせ。


どうせ自分以外にも、そう言って回っている癖に。




そう思ったが、言わなかった。
言うのは悔しかったし――同時にお門違いだとも、思ったから。





日計は、誇示するように膨らんだ胸を見せ付けてくる。



「ほら、己巨乳だよ?」
「み、見せるななのなっ」
「じゃあ見なくてもいいよ」



腕をつかまれた。
何をするのかと考える前に、柔らかい感触が手にある。




「っ……!」
「まいちゃん、照れてる?」



可愛いっという声がして、更に頬が熱くなった。




「揉まないの?」
「だから……っ」
「濡らさないで挿れたら痛いと思うよ? 別に己はいいけど」
「濡っ……」
「まあいいや。まいちゃんはそのままにしててー」





言うと日計はそのまま倒れ掛かってきた。
胸板にふくよかな感触が、ある。




それに一瞬気を奪われると、その隙に口付けられた。





「ん……っ」



歯を食い縛って舌を拒もうとすると、代わりに歯茎を嘗め回される。
再び胸を強く押し当てられて、口内への侵入を許してしまった。





「っ……ぁ」
「あ、まいちゃん耳弱いんだっけ?」
「ゃ……めっ」
「その顔可愛いっ」




耳を噛まれて、びくんと肩が動く。
下肢が僅かに熱を帯びたのが、わかった。




「手で勃たせてもいいんだけどさ。手で慣れちゃうと挿れてもイけなくなっちゃうらしいんだよね」
「ぁ……っん……!」





耳に熱いと吐息が掛かる。
その度背中が僅かに反るのが、自分でもわかった。

羞恥で死ねると、思う。



「っで……な、事……っ」
「己まいちゃん愛してるからさっ」
「き、兄は……っだれでも、そうなのなっ」
「そうだよ?」





悪意など何もなさそうに、彼は言った。
それが何故いけないのかと言う風に。



「でも、皆ちゃんと愛してるんだぜ、己は」




ああ、狂っているな、と妙に実感する。

こんな男に組み敷かれている己も――十二分に狂っているのだろうが。





「まいちゃん感じてる?」
「んじってな……っ」
「そっか。まいちゃんが気持ちいいと己も嬉しいっ」
「ちが……っ」



着物はもう殆ど脱がされていて、自分の嘘がばれていることはわかっている。
それでも、抵抗しなければならない、ような。

それは随分と、無駄な意地だ。

わかっている。





「じゃあ挿れるねっ」
「ゃ……っ」




迷いなく、自身にあてがわれて。
淫猥な音をさせながら、ゆっくりと挿入されているのがわかる。





「……たっ……ぃ」
「痛い? 大丈夫まいちゃんっ!? あ、そうだっ」






腕をとられて優しく噛み付かれた。
瞬間、自分の感じている痛みが、消える。




その代わり、つぅっと何かが滴る感触が分かった。
鉄の臭いのようなものが、ある。





「……ゃ……めっ」
「大丈夫っ! 一回で出来るかわかんないから何回もやんないとっ」
「出……き……っ!?」
「子供」






日計はにっこりと、笑った。





「まいちゃん、己に孕ましてよ、子供」



己、まいちゃんの子供孕みたいっと続けられる。




「それでさ、生まれてきた子供に己言ってあげるんだっ! いっぱい愛してるって言って、いっぱい生まれてきてくれてありがとうって言うんだ!」
「ひっ……ば……っ」
「まいちゃんも言ってくれるでしょ? 二人でいっぱい愛してあげようなっ」
「日、計……っ!」





体の痛みは、彼が先ほどから全部取ってしまっている。
なのに何故か、視界が霞んだ。


生理的な、物などでは、ない。





「まいちゃ……? 何で、何で泣いてるのっ!? 大丈夫!?」





がばっと起き上がった日計が視界に入って。
彼の――彼女のと言うべきなのかもしれないが――秘所から、流れる液体が見えた。





瞬間。
何かがはじける音が、した。





「くくっ……はは……あはははははっ」
「ま、まいちゃん!?」
「てめぇは阿呆か」



問答無用で殴る。
体が女だろうがこいつは日計だ。
妊婦ならともかく、遠慮する筋はない。




「今日女になったってんなら処女なんだろうがよ? 一発目で慣らしもしねえでいれたら血ぐらい出るのがわかんねえのか?」
「別に血が出ても良かったし……」
「俺様が嫌なのもわかんねえのかよ?」
「え? まいちゃん嫌なの?」
「嫌に決まってるだろうが、阿呆」





何で、と聞く声がする。
無視して寝転がると、謝られた。



「ごめんね、まいちゃんっ」




でも己まいちゃんの事好きだよ、と言われて。

ああやっぱりこいつは何にもわかっちゃいないのだと、思った。











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ライラ様宅から日計君、樫元こはだ様宅から蝸牛さんお借りしまし、た……!
すみませ……っ! ひたすら謝りますごめんなさいっ!