愛していながら殺される。それって矛盾じゃないんだよね。 9. そ れ さ え も 愛 の カ タ チ で (零崎×匂宮) 男は優しく少女の頭を撫でた。 少女は悲しそうに男を見た。 男は少女をその腕に抱いた。 少女は、男の胸に顔を当てながら、隣に突き刺さるナイフを見た。 どくん。どくん。 音が聞こえた。 これが聞こえなくなったとき、男は死ぬのだろう。 「ごめんね、きっしー」 「そのあだ名で呼ぶな」 少女は殺し屋。 男は、殺人鬼。 「きっしー、殺そうよ」 「嫌だっちゃ・・・・・・愚神礼賛は使うと後が汚い」 「あ、そ」 どくん。どくん。 「じゃあさきにいっててね。じぶんで死ぬから」 「・・・・・・別にいいっちゃけど。生きても」 「いや。ひとりになっちゃう」 男の胸に刺さっているナイフは、少女の得物である。 そして当然、それを刺したのも少女だった。 お互いに、その行為の必要性などわかっていない。 あちら側の人間から見れば、それがどれほど意味の分からない愚行なのかぐらい、分かっていた。 だけれどそれ以上に、自分達がこちら側の人間なのも分かっていたのだった。 恐らくは殺しすぎたのだ。 あるいは愛しすぎたのか。 「すきだよ、きししき」 「そ」 とくん、と最期に一つだけ、申し訳程度に鼓動がして。 少女は涙しながら、男の胸に刺さったナイフを引き抜いた。 飛び散る血。 そしてその狂気は、すぐに我が身に降りかかりて。 |