ああ構わない、だって君が 



私は、きっと一生、




7.笑顔で死ねなくとも君に覚えてさえくれれば

(零崎×零崎)






顔は真っ赤だった。
別に照れてたとかそんな可愛い理由ではなく、単純に血に染まって真っ赤だった。
誰の血なのか、わからない。
彼の血だろうか。それとも、誰かの血だろうか。


安らかな死に顔などそこにはなく、苦痛に顔をゆがめたような、それでいて恍惚としたような表情。
そんな死に顔、見慣れてたよ。



「逃げれば、良かったのに」



逃げるのは得意なはずでしょう。
逃げてばかりいたくせに。



彼の死体は随分と惨めな様相だった。



まず喉がつぶされている。腕が切られている。
ああ、私はあのファゴットの音を、あの甘美な韻律をもう二度と聞くことは出来ないのだ。
そう思うと少しだけ哀しくなった。



何故。


何故何故何故。




「わから、ない」




答えてくれない。
お別れも出来ない。
もやもやだけ残った。
鬱陶しい思いが滞留する。


黒い肩まであった髪の毛は、少しばかり短くなっていた。
それは明らかに床屋の所業ではなさそうだったけれど、中々様になっている。



そろそろ行かなければ。家族が待っているのだ。
鬼にしては優しすぎるその家族は、この様子を凝視できず、さっさと何処かへ行ってしまった。
覚えておかなければ。
記憶者は私しかいない。
私がおぼえていなければ、彼の死は覆い隠されてしまう。



私は数歩彼から遠のいて、まるで写真か何かのように、風景ごとその様子を記憶した。



空は鳥が飛んでいた。空は綺麗な蒼だった。
そしてその真下の惨劇だけが、妙に生生しく肉肉しい。



彼のファゴットはどこだろう。
目当ての物はすぐに見つかった。血がつまっている。洗わなければふけなくなるだろう。
吹けなくなれば、きっと彼は悲しむ。


そう思って私は、そのファゴットを破壊した。
何を戯言を垂れているのだ、この私は。



所詮彼の手がなかろうがどうだろうが、彼の音色を聞く事など出来るわけもない。




それが死だ。
絶対的な、死。





「・・・・・・それでもアンタは」





この状況を悪くないだなんて、私に言うのですか?