拝啓、ろくでなしの家賊へ、 (零崎×零崎) 「俺が行くって――言ってるっちゃ」 「私が行くって――言ってるじゃん」 男と女は睨み合っていた。互いに腕を組んで、互いに強い意志を見せて、互いに一歩も譲らない。 強い目だった。 二人は二人とも、互いの目を見て確信する。 「腐っても零崎一賊三天王――っちゃよ。シームレスバイアス――零崎軋識が行くべきだっちゃ」 「何が零崎一賊三天王――もう一人しかいないくせに」 そう言うと女はそっぽを向いた。 男は呆れたように溜息をつく。 「言った本人が傷ついてるんじゃねーっちゃ」 「傷ついてない」 「嘘つけ」 「ついてない」 女はぽつりと語った。 「ベリルポイント・・・・・・ボルトキープ・・・・・・連絡取れないって事はマインドレンテルもか・・・・・・」 嗚呼。そう言って座り込む女。 「ねえ軋識。皆死んじゃったんだよ。私らが適うわけないじゃん。逃げようよ」 「そういう事はもう少し感情込めて言うもんだっちゃ。逃げる気なんざ無いくせに」 「バレたか」 「あたりまえだっちゃ」 男はその隣に腰を落す。 「私の我侭なんだよ。アンタの後になんか死にたくない。今までさんざ我侭聞いてくれたんだから、最後も一つ、見逃してよ」 「俺だって俺の我侭だっちゃ。お前の後に死ぬ何ざまっぴらごめんだっちゃよ。今までさんざ我侭聞いてやったんだから、最後の一つぐらい譲るっちゃ」 二人の間に、生き残る選択肢はなかった。 それは、零崎だから。零崎、故に。 「嗚呼」 女は男にしがみついた。抱きつく姿勢のまま、天に手を伸ばす。 目には今にも溢れんばかりの涙が溜まっていた。 男は女を支えるように、その背中に手を回す。 「皆あそこにいるのかな。空に上ってるかな」 「天国でのうのう暮らす鬼なんざ見たことねーっちゃ」 「なら――海の底に、沈むかな」 空に目を向けたまま呟いた女に、至極真面目に返答する男。 「ああ・・・・・・いいっちゃね、それ。その方が余程それらしいっちゃ」 「海の藻屑に、か」 「そういや、お前死んだら海に捨てて欲しいって言ってなかったっちゃか?」 「あー言った。そしたらアンタもそれはいいって笑った」 「そうだったっちゃかね」 「うん。一々墓立ててたんじゃ普通に考えて、その内日本中墓だらけになるって言った。夢の無い」 「本当の事だっちゃ。人は死に続けるが世界は広がらない」 「格好つけるな」 「つけてねーっちゃ」 「格好いいもん」 「・・・・・・訳がわからん」 「ねえ、軋識」 「なんだっちゃ」 「人識には、言わないでおこうね」 「・・・・・・・・・・・・」 「たぶんあの子は――零崎から抜けれる、唯一の子だ」 「そう――ちゃね。あいつなら、零崎を終わらせれるかもしれない」 「だよね」 女は手を離して立ち上がった。男もそれに倣う。 「果たして空に昇るか――海に沈むか」 「どっちにしろ――奴らのうのうと居るに決まってるっちゃ。皆そろって」 「そろって、ね。皆寂しがりだからなあ」 結局の所。 鬼達は寂しかっただけなのだ。 だからこそ――零崎。 だから――零崎は、終わらなかった。 「行こうか、軋識」 「そうっちゃね」 「この空と海の狭間の世界に、美しくも醜い楽園に、お別れは出来た?」 「――楽園、ねえ」 何処だろうと――男は語りだす。 「皆で居れば、そこが楽園だっちゃよ」 「そうだね――あはは」 そして二人は揃って――橙色の死に、向かっていった。 |