お元気ですかこちらは万全、今からそちらに参りま す

拝啓、ろくでなしの家賊へ、




5.空と海の間で死ぬのか

(零崎×零崎)





「俺が行くって――言ってるっちゃ」
「私が行くって――言ってるじゃん」



男と女は睨み合っていた。互いに腕を組んで、互いに強い意志を見せて、互いに一歩も譲らない。

強い目だった。

二人は二人とも、互いの目を見て確信する。



「腐っても零崎一賊三天王――っちゃよ。シームレスバイアス――零崎軋識が行くべきだっちゃ」
「何が零崎一賊三天王――もう一人しかいないくせに」



そう言うと女はそっぽを向いた。
男は呆れたように溜息をつく。


「言った本人が傷ついてるんじゃねーっちゃ」
「傷ついてない」
「嘘つけ」
「ついてない」


女はぽつりと語った。


「ベリルポイント・・・・・・ボルトキープ・・・・・・連絡取れないって事はマインドレンテルもか・・・・・・」


嗚呼。そう言って座り込む女。



「ねえ軋識。皆死んじゃったんだよ。私らが適うわけないじゃん。逃げようよ」
「そういう事はもう少し感情込めて言うもんだっちゃ。逃げる気なんざ無いくせに」
「バレたか」
「あたりまえだっちゃ」


男はその隣に腰を落す。



「私の我侭なんだよ。アンタの後になんか死にたくない。今までさんざ我侭聞いてくれたんだから、最後も一つ、見逃してよ」
「俺だって俺の我侭だっちゃ。お前の後に死ぬ何ざまっぴらごめんだっちゃよ。今までさんざ我侭聞いてやったんだから、最後の一つぐらい譲るっちゃ」



二人の間に、生き残る選択肢はなかった。
それは、零崎だから。零崎、故に。



「嗚呼」



女は男にしがみついた。抱きつく姿勢のまま、天に手を伸ばす。
目には今にも溢れんばかりの涙が溜まっていた。
男は女を支えるように、その背中に手を回す。




「皆あそこにいるのかな。空に上ってるかな」
「天国でのうのう暮らす鬼なんざ見たことねーっちゃ」
「なら――海の底に、沈むかな」


空に目を向けたまま呟いた女に、至極真面目に返答する男。



「ああ・・・・・・いいっちゃね、それ。その方が余程それらしいっちゃ」
「海の藻屑に、か」
「そういや、お前死んだら海に捨てて欲しいって言ってなかったっちゃか?」
「あー言った。そしたらアンタもそれはいいって笑った」
「そうだったっちゃかね」
「うん。一々墓立ててたんじゃ普通に考えて、その内日本中墓だらけになるって言った。夢の無い」
「本当の事だっちゃ。人は死に続けるが世界は広がらない」
「格好つけるな」
「つけてねーっちゃ」
「格好いいもん」
「・・・・・・訳がわからん」


「ねえ、軋識」
「なんだっちゃ」
「人識には、言わないでおこうね」
「・・・・・・・・・・・・」
「たぶんあの子は――零崎から抜けれる、唯一の子だ」
「そう――ちゃね。あいつなら、零崎を終わらせれるかもしれない」
「だよね」


女は手を離して立ち上がった。男もそれに倣う。



「果たして空に昇るか――海に沈むか」
「どっちにしろ――奴らのうのうと居るに決まってるっちゃ。皆そろって」
「そろって、ね。皆寂しがりだからなあ」


結局の所。
鬼達は寂しかっただけなのだ。
だからこそ――零崎。
だから――零崎は、終わらなかった。



「行こうか、軋識」
「そうっちゃね」
「この空と海の狭間の世界に、美しくも醜い楽園に、お別れは出来た?」
「――楽園、ねえ」


何処だろうと――男は語りだす。


「皆で居れば、そこが楽園だっちゃよ」
「そうだね――あはは」




そして二人は揃って――橙色の死に、向かっていった。