信用できずに、ごめんなさい。 4. 夢 の 終 わ り は 無 限 の 始 ま り (石凪×闇口) 昔々あるところに、二人の闇口が居ました。 二人は二人とも、少女でした。 そのうち一人は石凪の兄を持っていて―― もう一人は、その石凪に恋をしていました。 だからというわけではないのだけれど、二人はいつも一緒にいました。 深い闇が朽ちていく中、いつもいつも一緒にいました。 時は過ぎて――石凪の兄を持つ、血も凍るような美少女の闇口が。 その可憐さに見せられた、何人かの何者かに襲われ掛け――ました。 それを助けたのは、石凪に恋をした闇口でした。 少女はすぐさま彼女の兄に連絡を取り、自分を犠牲にして、無理やり彼女を逃がしました。 彼女の兄は好きだったけれど――彼女の事もまた、少女は好きだったのです。 折角の獲物を逃がされた男達は怒り――その代わりにと、少女を。 繰り返され、薄れ行く意識の中で、少女が思ったのは石凪の少年の事でした。 嫌な記憶は真白な霧に覆い隠され、まるで夢の中にいるようだと、少女は思いました。 それから、少女は随分と長い間、とらわれていました。 そろそろ限界でした。 少女は、隠し持っていた刃物を取り出し。 自分の白い右腕を、その奥に流れる血潮を、じっと見ました。 そして覚悟を決めて、少女は手を翳しました。 貴兄が乾きしときには我が血を与え、貴兄が飢えしときには我が肉を与え、貴兄の罪は我が贖い、貴兄の咎は我が償い、 貴兄の業は我が背負い、貴兄の疫は我が請け負い、我が誉れの全てを貴兄に献上し、我が栄えの全てを貴兄に奉納し、 防壁として貴兄と共に歩き、貴兄の喜びを共に喜び、貴兄の悲しみを共に悲しみ、斥候として貴兄と共に生き、貴兄の疲弊した折には全身でもってこれを支え、この手は貴兄の手となり獲物を取り、この脚は貴兄の脚となり地を駆け、 この目は貴兄の目となり敵を捉え、この全力をもって貴兄の情欲を満たし、この全霊をもって貴兄に奉仕し、 貴兄のために名を捨て、貴兄のために誇りを捨て、貴兄のために理念を捨て、貴兄を愛し、貴兄を敬い、貴兄以外の何も感じず、貴兄以外の何にも捕らわれず、貴兄以外の何も望まず、貴兄以外の何も欲さず、貴兄の許しなくしては眠ることもなく、貴兄の許しなくしては呼吸することもない、ただ一言、貴兄からの言葉にのみ理由を求める、 そんな惨めで情けない、貴兄にとってまるで取るに足りない一介の下賎な奴隷になることを――ここに誓います。 「本当は――本人に言いたかったけど」 そしてその白い腕に、赤い赤い傷口を、つけました。 ぽたぽたと、ぽたぽたと。一種の賭け事遊びでした。 このまま死ねなかったら、勝ち。死んでしまっても、勝ち。 ただ、死ねなければ賭けは続行、死んでしまえば勝ち逃げと、それだけなのです。 「ああ――まるで夢でも、見ているかのよう」 少女は呟きました。 「萌太崩子――幸せに、ね」 一人ぶつぶつと、呟きました。 その独白に、返事が返ってきました。 「夢ですか――ならそろそろ起きてください、」 その声に――本当に今目が覚めたかのように少女は目を見開きました。 血も凍るような美少年が、手に血のついた鎌を持って、ニコニコと笑っています。 「萌、太?」 「はい。遅れてすみません」 「あ、あ――」 願っていた邂逅で有ったはずなのに、少女はどうしても言葉が出てきませんでした。 混乱する頭の中で、嗚呼崩子は大丈夫なのだと冷静に考えて―― 考えているその間に、少年は優しく少女の手をとると、歩き始めました。 つられて歩き始める少女。そして、 「わあ」 まるで一筋の道のように、死体が積み重なっていました。そしてその通り、そこは少年が入ってくるさい通った道なのでしょう。 とてとてと、とてとてと。二人は魔窟を、脱出しました。 * * * 「ねえ萌太」 少女が問います。 「なんです?」 少年が答えます。 「崩子は大丈夫?」 「外傷はないです――の姿を見れば、きっと落ち着くと思います」 「ああ、だから――」 「だから?」 「だから萌太は私を助けたんだ」 少年は立ち止まりました。 少女も、立ち止まりました。 「何を言うんですか、」 「何でもない。忘れて」 「忘れれるわけないですよ。まだ夢でも見てるんですか?」 「見てるのかも知れない。なら萌太は夢になるね」 「それは困りますね。だからそろそろ起きてください、」 「嫌だなあ」 「」 「だってもしかしたら、萌太消えてしまうかもしれない」 少年は少女の腕に触れました。少女は苦しそうに顔をしかめます。 「起きてください。僕は、がいないと困るんです」 「崩子の為に?」 「違いますよ――崩子とは関係なく」 少年は少しだけ、真剣な目をしていました。 「僕はが好きなんです」 少女は不思議そうに反復しました。 「すき?」 「はい。目は覚めましたか?」 「え、と」 「そろそろ――夢はおしまい。有限なこの世界を、二人で無限に生きるんですよ、」 「崩子はいいの?」 「崩子は別に、大切な人を見つけるはずですよ――それがいつなのかは、分かりませんけどね」 少年は少しだけ、意地悪そうに笑いました。 「これは命令ですよ――主の命令は絶対、なんでしょう?」 「・・・・・・っ何で知って」 「の事なら何でも分かります」 こうして。 少女の夢は終わり――二人の現実は、無限に続き続けます。 これはこういう、お話です。 |