幼いあの日のあの言葉は、戯言なんかじゃなかったよ。



3.誰かの変わりにありがとう


(零崎×零崎)






「ありがとね」
「何がだい?」


男の目の前で少女は、少し薄倖そうに笑った。


「これは私の有難うじゃないよ。これからレンが殺したかもしれない人たちの代わりなんだよ」
「ああ・・・・・・成程」


男は随分と幸せそうに笑った。


「私がお礼なんて言うわけないじゃん。何死に掛かってんの。約束したのに。大きくなったら――」





お兄ちゃんのお嫁さんになる。





男は困ったように笑った。


「じゃあ今から結婚しようか」
「新婚早々未亡人って」
「ああ――それはそれは、だね」
「ねえ、しんじゃうの?」
「うん」



男の身体からあふれ出している血は、どこからどうみてももう手遅れで、今会話が交わされていること事態が、一種の奇跡みたいだと思った。



「うん・・・・・・やっぱ、人殺しって悪いことだよね」
「言ってるじゃないか――いつも。悪いことだってさ」
「うん。うんうんうん」


少女は男に縋りついた。白いドレスが、真っ赤に染まる。


「ありがとね」
「何がだい?」
「だから、これは私のありがとうじゃないの」
「さっきも言ってたじゃないか、ちゃん」
「さっきのはこれから殺されるはずだった男の人の分。これはこれから殺されるはずだった女の人の分」
「そうかい」


少女は男の背中に手を回した。男は少女の背中に手を回した。



「ねえ、レン」
「何だい」
「結婚、しようか」
「・・・未亡人になっちゃうよ」
「いいよ。亭主に操を立てるから」
「兄として光栄な限りだな」
「男としては?」
「幸福な限りだよ」
「そう。良かった」



「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓うよ」
「以下同文」
「適当だなあ」



そういうと、誰に言うともなく二人は誓いの口付けを行った。



「ありがとう」
「今度は誰のだい?幾ら私がツンデレ好きでも、そこまでアピールしなくても」
「うん。ツンデレはデレを見せてこそツンデレだもんね。これは私のありがとう」



少女は少し照れたように笑った。



「今までずっと、全部全部ありがとう。これからもずっと、感謝してる」
「ああ、うん。それでこそ私の妹だ」



「うん。ありがとね」



「それは?」
「これはレンの分だよ。今までずっと――辛くても」



少女は俯いた。




「生きててくれて、ありがとう」



男の力が、ふっと抜けた。
少女の力は、反比例するように強くなる。




二人はいつまでも、いつまでも、