ねえ駄目よ、だって貴方は明日の私の生なんて、証明してくれないじゃない。
(零崎×零崎) 「止めに来たの人識・・・・・?」 女は存在を誇示するように笑うと、一転、存在が希薄になるように口を閉じた。 「それとも勧めに来たの・・・・・・?」 疑問系で、か細く話すのがこの女の癖なのである。その割に服装は至って派手で、所謂パンク系の格好をしている。 まったく不釣合い極まりないが、しかし、殺人鬼が自殺に及ぼうとしているこの構図に比べれば、幾分かマシに思えた。 女の身体は既にフェンスの外にある。 落ちれば間違いなく、死ぬだろう。 「さあ・・・・・・一言言いに来たんだよ俺は」 対する白髪の少年は、心底かったるそうに頭をかいた。 つまらない茶番劇でも見ているかのような――鬱々とした瞳を晒して。 一言言いに来た、とは言ったものの、少年がこれ以上語る様子もない。 仕方がなしに女は、自ら言葉をつむいだ。 「死ぬのって、割に簡単よね・・・・・・?」 遠くを見るような焦点の合わない瞳。 「落ちればいいんだもの。どこからだって。それでも人が死なないのは」 血色が悪く、薄い色の唇。 「きっと、確信があるからじゃない・・・・・・?」 ざくざくと、適当に揃えられた髪。 「明日も、明後日も、自分が生きてるっていう、ビジョンが見えてるからだと、思うの」 手首に巻かれたレザーの腕輪。腰で履くタイプのジーパン。じゃらじゃらと、鎖があちこちに伸びている。 少女の存在に比べ、周りの小物が余りに強い印象を残すものだから。 ふと、疑いたくなる。 少女はそこに、居るのかと。 「で・・・・・・? 人識は、何を言いにきてくれたの・・・・・・?」 今にも飛び降りんとして、決して揺るがないようにして、少女は少年に問うた。 少年がいつもの笑みを浮かべると、少女はそれに少し安心したようだった。 「生きてるのも死んでるのも、同じようなもんだと思うんだよな」 少しだけ前進する。少しだけ、空が近づく錯覚をする。 「だったら、構わないわよね・・・・・・?」 「ああ。だけどな。一つだけ決定的な、違いがあるぜ」 困ったように少年が自分の頬の刺青に触れるのと、少女が飛び出すのはほぼ、同時だった。 風圧に全ての音が消える前、少女は確かに、聞いた。 「そっちには俺はいねえんだよ、馬鹿野郎」 そして――少女は笑って。 「そういう事はもっと早く言いなさいよ・・・・・・? って、大したエゴイズムね」 でも、と唇が動いて、後は言葉にならなかった。 重みで頭が下に来る。そうして苦労して見上げたフェンスの向こう側に 随分と不自然な笑みを浮かべた少年が立っていて、それでもう十分だった。 |