最後の最後の逃避行、勝ち逃げなんてさせないよ。


精一杯の苦しみを、それ以外はいらないから



12.苦しまずに生きたなら


(零崎×零崎)





「悪くない」
「悪いよ。ばーか」
「・・・・・・がそういうなら、そうなんだろう」
「だからアンタは馬鹿なんだよ。馬鹿なんて思ってないよ」
「そうか。悪くない」
「だから悪いってば」



理解できないのは私が馬鹿だからなんだろうか。
それとも私の言ってる通り、こいつが馬鹿だからなんだろうか。







でもさ、自分が死にかかってて、大切な恋人も死にかかってるようなこの状況、絶対最悪だと思うよ。








「最悪最悪最悪」
「そういうものでもない」
「なんかアンタってさ・・・・・・」
「ん?」
「わかんない」
「そうだな・・・…悪くない」



あんまりにも奴の考えが分からないものだから、私は腹を立てて奴の頭を叩いた。
実際には叩こうとして力が入らなくって、頭の上にぽん、と置いた感じになるのだけれど。




「だってさ、逃げ切れてないよ『逃げの曲識』さん」
「逃げれているじゃないか。死は最大の逃亡だ」
「逃亡先がないってば」
「あるかもしれない。死んだ先は誰にも分からない」
「それはそうだ・・・・・・だったら、信じたほうが得、か」
「うん。悪くない」




やっぱり悪いと思うんだけどなーと私は考えて、少しだけ意識を失いかけた。
危ない危ない。
ふと奴に目をやると、瞼が随分と重そうで、今にも眠ってしまいそうだった。しかも永遠に。





「おい曲識。お願いだから寝ないでよ」
「・・・・・・寝て・・・・・・・な」
「いや完璧アンタ寝かけてるから!」
「だか、ら」



寝たいらしい。眠たいらしい。
ああ真面目に腹が立つ。




「もういい好きに逃げろ馬鹿野郎」




しかたがないから口付けた。
もうほとんど意識もなさそうに、曲識は呟く。




「・・・・・・悪く、ない」
「ほんとだよ悪くない。最悪なぐらい最高だ」






それまで元気に回り続けていた私の口は、何故だか突然気力をなくし、舌が口の中で絡まる絡まる。
結局最期に何も言えず、一足先に逃げてしまった恋人を追って、私の瞼も閉じられた。







畜生、普通逃げるのは女の役だろうが、なんて。
相変わらず可愛くない悪態をつきながら。