なつかしのきみ。 11. さ よ う な ら 、 さ よ う な ら 、 わ た し 。 (匂宮×匂宮) 見下ろせば地上。 そこには血が一面に広がっており、 その中心には少女が居て、 当然のように少女は死んでいて、 何より恐ろしいことにそれは私だった。 「ゆうたいりだつ? いや、幽霊、か」 幽体離脱は生きてる人間がやるものだ。 死んでる私は只の幽霊。 「やっぱり、幽霊はいるのかな」 例えば彼。私の知らないところで死んでしまった彼。 何処の者とも分からない、情緒不安定な女が、死亡通知を届けてきた彼。 彼は死ぬ間際、大切な大切な妹の名を呼んだという。 ならば、やはり。 幽霊は存在するのだ。 それは自分が幽霊だからというよりは、幾分かマシな論理付けだった。 そうすると、彼の妹は彼の元に居たのだろう。 死んでからも、ずっと。 未練があったのかもしれない。 では彼が此処にいないという事は、私に未練はなかったという事だろう。 馬鹿らしい。 きっとあのシスコン狂戦士は、妹を見た瞬間他のこと何ざどうでもよくなったに違いない。 馬鹿らしい。 本当に馬鹿らしい。 何が馬鹿らしいって、彼の死を聞いてさんざ嘆いていた我が身が、だった。 まあ、だけれどそれを見られていないのだから、とんとんかもしれなかった。 「なーにしかめっつらしてんだよ、おねーさん」 だから後ろなんて振り向いてやらないのだ。 それが幾ら大事な彼の声だったとしても。 私は精々しかめっつらで、彼のことを無視してやる。 そのうちに、短気な殺し屋がこちらに顔を見せるまでは。 「さようなら」 死体に向かって呟いてみる。 殺し屋に手を引かれ、私は天国の階段を上る。 あるいは、奈落への階段を下る。 「さようなら、わたしってか?ぎゃは、粋な事言うねえおねーさん」 「粋がってるだけだよ、出夢君」 そういうと彼は、地上に向かって「ばいばーい」と叫んだ。 それが何に対するものか、はたまた誰に対することなのかは、分からない。 |