幽霊がいるなんて、それはそれは素敵な妄言



なつかしのきみ。



11. さ よ う な ら 、 さ よ う な ら 、 わ た し 。


(匂宮×匂宮)






見下ろせば地上。
そこには血が一面に広がっており、
その中心には少女が居て、
当然のように少女は死んでいて、
何より恐ろしいことにそれは私だった。





「ゆうたいりだつ? いや、幽霊、か」





幽体離脱は生きてる人間がやるものだ。
死んでる私は只の幽霊。





「やっぱり、幽霊はいるのかな」





例えば彼。私の知らないところで死んでしまった彼。
何処の者とも分からない、情緒不安定な女が、死亡通知を届けてきた彼。








彼は死ぬ間際、大切な大切な妹の名を呼んだという。








ならば、やはり。
幽霊は存在するのだ。




それは自分が幽霊だからというよりは、幾分かマシな論理付けだった。


そうすると、彼の妹は彼の元に居たのだろう。
死んでからも、ずっと。
未練があったのかもしれない。





では彼が此処にいないという事は、私に未練はなかったという事だろう。
馬鹿らしい。



きっとあのシスコン狂戦士は、妹を見た瞬間他のこと何ざどうでもよくなったに違いない。
馬鹿らしい。
本当に馬鹿らしい。





何が馬鹿らしいって、彼の死を聞いてさんざ嘆いていた我が身が、だった。
まあ、だけれどそれを見られていないのだから、とんとんかもしれなかった。





「なーにしかめっつらしてんだよ、おねーさん」





だから後ろなんて振り向いてやらないのだ。
それが幾ら大事な彼の声だったとしても。





私は精々しかめっつらで、彼のことを無視してやる。

そのうちに、短気な殺し屋がこちらに顔を見せるまでは。





* * *







「さようなら」





死体に向かって呟いてみる。
殺し屋に手を引かれ、私は天国の階段を上る。
あるいは、奈落への階段を下る。



「さようなら、わたしってか?ぎゃは、粋な事言うねえおねーさん」
「粋がってるだけだよ、出夢君」



そういうと彼は、地上に向かって「ばいばーい」と叫んだ。

それが何に対するものか、はたまた誰に対することなのかは、分からない。