奇人の奇行は少し距離を取った所で見るに限る。
寄りすぎればこちらまで奇人扱いされてしまうだろうから。

血のにおいはともかく、内臓の発する臭いは無闇やたらに吐き気を刺激する。自分の殺し方も殺し方なので、人にどうこう言える立場ではないのだが、それにしたって非道い。言い訳を一つするなら、自分が殴殺の不可抗力でその液体を出さざるを得ないのと、幾らでも綺麗に殺せるくせに死体を弄る男の殺し方には決定的な違いがあるのだろう。何故に少女。何故に内臓。戯れにその理由を聞いた事はあるが、奴の返答は「アスは、その妙なキャラ作りの意味を僕に教えられるのか?」だった。つまるところ、それが教えられないならこちらも教える義理はないし、どうせ教えられない事は明白だから教えない、という事。曲識の言動から鑑みるに、何か自分以外の存在からの影響を受けているのだろうが、まあどうでもいいとしよう。家族だからと言って、何処までも知り尽くし、何処までも受け入れあう必要などないのだから。
家族は身を寄せ合う、それだけだ。

「帰ろう、アス」
「……ああ」

華麗な音を奏でる指先は既に何とも知れない液体で染め上げられていた。芸術家は己の指先には頓着擦る物だと思っていたが、違うのか。それとも奴が芸術家である前に、一人の殺人鬼だからなのだろうか。しかし死体の内臓を引きずり出す姿は、鬼だと言うのにやたらに人間臭い、と思う。狂人というのが一番近いかもしれなかった。それはまるで、キリスト教の信者が神に祈るように自然に儀式的に、殺人鬼は人を殺し、内臓を取り出し、それを体に巻きつける。しかも揃いも揃って少女ばかり。可愛らしさを喪失した少女の骸を見つめ、こいつだけは絶対に彼女に会わせてはならない、とそんな決意を新たにした。


キル・ブリランテ
華殺