「僕は少女しか殺さない」


それがどうしたんだ積雪さん、と曲識は本当に不思議そうに問うた。それもある種仕方がないのだろう、何故なら自分たちは殺し名として、呪い名としてここに二人存在しているわけではないのだから。
彼は音楽家で、自分は彼のファンと言うだけの事。
音楽に、血なまぐさい話はそうそう似合うものでもなかった。



「いえ。どうしてなのか、と思っただけですよ。ただの興味と言う奴です、曲識君」


そのまま沈黙を続けると、首を傾げてから、曲識は語る。


「……昔、ある少女に会った。それだけだ、積雪さん」
「そう――ですか。それだけ、ね」


積雪は薄く微笑み、それにまた曲識は首を傾げた。


「禁欲に不愉快は感じなかったんですか?」
「昔はともかく、今は問題ない。というより、最早少女以外に食指が動かないんだ――悪くない」
「言葉だけ捉えると、やけに犯罪的ですね。まあ、犯罪には変わりないのですが」


まるで尋問のように、しかし優しく生温く、質問は続く。



「君の主義と、少女に会った事の関連については詳しく聞いてもいい話ですか?」
「……悪くない。だが、詳しく語る気はないな。ただ」



ここではないどこかを見て、曲識は続ける。



「幾ら少女を殺しても、幾らその亡骸から内臓を引きずり出し汚しても」


あの赤色が消えない、と溜息を吐いた曲識に、積雪は口を開いた。





「曲識君」
「何だ、積雪さん?」
「それは――」



それは所謂レンアイという奴ではないのでしょうか。
それを彼に伝えたい気もし、しかし伝える事は自虐行為(或いは自滅行為)のような気も、していた。
自覚を与える事はこちらに何の利益も与えないのだ。何故なら自分もまた、そのレンアイという奴をしているから。



「いえ、何でもありませんよ。良かったら何か演奏してくださいませんか」
「ああ。勿論だ――悪くない」






ノンスマイル・スケルツォ
無笑曲