ひとつの愛を紡いだら
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「あー後は牛乳!」 「まだ買うっちゃか……」 「一週間分は買っておいたほうがいいだろ」 「どうせ暇なんだからいつでも買いに行けばいいっちゃ」 「人生は短いからね。手間はなるべく省いたほうがいい」 そんな風に屁理屈をこねられ(どうせ大して人生したいとも思ってないくせに)分担して牛乳を取りに。 さてどれを買うのかと、伸ばしたむき出しの腕に冷気が触れる。 と。 「……ん?」 冷気なんかの曖昧なものじゃなく、確かな感覚が腕に。 冷たく小さな手、一体なんだと振り向けば。 「…………!」 「久しぶり、ぐっちゃん」 久しく見ていなかった、彼女がいた。 それはどう見ても彼女とは言えない容姿をしていたけれど――それでも。 間違いなく彼女だと、断定できる存在だった。 成長しないはずの彼女は、多少童顔ではあるものの、年相応に成長しており。 劣性の証の青色は、優性の黒へと変わっている。 片目だけが青く、それだけが昔の彼女の名残とも言えた。 「暴、君」 それは正直言って、落胆すべき姿であったはずだった。 自分の魅せられた彼女はもういない、はずだった。 もしくは問いただす場面だったかもしれない。 一体これは、どういうことだと。 しかし、そのどのこともせず。 式岸軋騎は――語りかける。 「幸せに、なられたんですね」 それは切ないと同時に、歓喜を禁じえない出来事だった。 痛い。痛くない。 辛い。辛くない。 嬉しい。――嬉しい。 だから目じりから溢れるこの液体が、果たしてどの感情によるものなのかなど、果てしなくどうでもいい。 彼女は――幸せに、なったのだ。 その確信を、それだけで十分だというその確信を、肯定するように彼女は。 「うん」 昔見ることは出来なかった、酷く純粋そうな笑顔でそういった。 (報われないことなんか、万に一つも無かったんだ)(俺は酷く、嬉しい、です) |