「軋識さん軋識さん」 「なんだっちゃ、舞織」 とあるマンションの一室、同じソファの上。 殺人鬼の男と殺人鬼の少女。 「よく女人禁制のお寺ってありますよねえ」 「よくかどうかは知らんっちゃけど、あるっちゃね」 「あれ、何でなんですかね」 「?」 唐突である。 それでも軋識は、頭を働かせて答えを返す。 「修行の妨げになるから――じゃあ、ないっちゃか」 「だってそれ可笑しいですよう」 舞織は頬を膨らませた。 「女の子が入ったぐらいで崩される修行だったら、結局やっても無駄ですよう」 「ん、まあ一理あるっちゃけど」 正直どうでもいいのだった。 そんな朧な軋識の反応に、舞織は更に頬を膨らます。 「軋識さん適当ですよ」 「悪かったっちゃね。・・・・・・ところで、それがどうかしたっちゃか?」 「怒りません?」 軋識の様子を伺うようにする舞織。 軋識が頷いてみせると、安心したように語りだした。 「昨日ですね、うっかり殺っちゃったのですよ、お坊さんを」 「・・・・・・どんなうっかりだっちゃ」 「だってですね、軋識さん。私は昨日偶々山に散策に出かけたら、偶々そこにお寺があって、偶々女人禁制だったんですよう。私は無実なのにそのお坊さんが顔を真っ赤にして怒るんです」 だから、つい。 舞織は照れたように顔をかいた。 「あれぐらいで怒るなんてちっとも悟れてませんよう」 「悟りなんてそう開けるもんじゃないっちゃ」 ですねえ、と舞織は軋識の膝の上に頭をのせた。 「あそこで修行してるお坊さん達から見たら、私達はとんでもなく俗物ですね」 「まあ別に悟りたくもないっちゃから」 舞織は腕を伸ばすと、軋識の首に絡ませた。 そのまま顔を引き寄せ、文字通り、落すような接吻。 「うな」 もう一度照れたように笑って、世界などどうでもいいからこの瞬間だけは守りたいと――そんな事を思うのだった。 |
Love is Useless?