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蝙蝠は漸く悟りました。
彼らは、自分の妙な格好も――仮装とやらの一種だと思っている様なのです。
何でも、今日のハロヰンと云う祭は、妖怪等の格好をして、家々を回り歩く物なのだと彼らは云いました。




「ま、本場はそうらしいんだが、何しろ此処は日本だからな。祭と来きゃあ出店だろってんで、こんな妙な事になってんだけどさ」




確かに、まるで夏祭りか何かの如く、出店が立ち並んでいます。
其の中を、妙な格好をした人間達が蠢いていました。


どの顔も、楽しそうでした。
蝙蝠は――久方ぶりに、胸が高鳴るのを、感じていました。
彼もまた、楽しかったのです。



「きゃはきゃは――なあ、良かったらさ」
「? 何だ」
「俺も一緒に、回ってもいいか? 一緒に来た友達と逸れちゃってさ」



正確に云えば、逃げて来たのですが。
少しだけ、好きな事をしたくなったのです。
自分が人間に見える――今日だけは。



人間達は、優しそうな笑顔で、其れを承諾してくれました。



「あ! あんた達!」
「狂犬」



見れば、奇抜な格好をした人間の女が右手を振って居ます。
左手には、籠を下げ、其の中には大量の菓子が入っているようでした。



「沢山貰ってきましたねえ」
「何云ってんのよ! こんなに貰う訳ないでしょ。此れは配ってんの」



走り寄って来た女は、其其に飴を渡しました。




「あら? あんたは?」
「祭に来たそうだ。友人と逸れたらしいから、共に周ろうかと思ってな」
「へえ。そう何だ……じゃ、此れ食べなさい!」





友達の分も、と女はどさどさと飴を蝙蝠に持たせました。




「あんた名前何て言うの?」
「蝙蝠――だけど」
「宜しく蝙蝠。楽しみなさいよ!」





元気良くそう言うと、女はまた去って行きました。






「そういや……名前、聞いてなかったな」
「あはは……忘れてましたね。僕は蜜蜂です。こちらは蝶々さんと――」
「蟷螂だ」





蟷螂は、貰った飴を銜えながら云いました。
蝙蝠も其れに倣って、飴を銜えます。




遠い昔に舐めた物よりも、ずっとずっと、甘い味がしました。






「美味しいですか?」
「甘い」
「……だな」





甘過ぎる飴は、何故だか。
今までで一番、美味しい味がしました。






* * *








「皆さんお揃いで」
「其の奇天烈な被り物は何だ……?」
「帽子の一種だそうです。歩いていたら頂きました」
「へえ……西洋には不思議な物があるんですね」




狂犬が立ち去ってから暫く、話をしながら四人が歩いて居た時です。
前髪を垂らした男が、唄う様な声で話しかけて来ました。

如何やら彼らには、知り合いが多い様です。
其れは少しだけ、羨ましい事でありました。





「おや――」





男はふと蝙蝠の方に視線をやると、目を細めました。
何かを見通す様に、目を細めました。



「珍しい事も有りますね」
「ん? 何だ喰鮫どの。知り合いなのか?」
「いえ、知っている訳では有りません。しかし――」





少し彼をお借りして構いませんか、と男は云います。




「? 如何云う事だ?」
「何も取って喰う訳では有りませんから、いいでしょう、いいでしょう、いいでしょう、いいでしょう」
「――俺はいいぜ、別に」
「ならば決まりですね」




男は身振りだけで蝙蝠に着いて来る様示すと、三人から、姿は見えても声は聞こえない程度に離れました。




「きゃはきゃは――で、何だよ」











「お初にお目にかかります――天狗様」











「っ!」





蝙蝠は目を見開きました。
視界には、微笑む喰鮫の顔のみが映っています。




「お、前――何で」
「人間にも天狗は見えるのです。見えるなら知らぬ筈も無いと、そうは思いませんか――思いませんか、思いませんか、思いませんか」





其処で喰鮫は方を竦めました。





「と云うのは冗句としまして。本当は、私も貴方とご同業だからなのですよ」
「同業?」
「尤も、少々位は劣りますがね――」




元は木霊と言うのですよ。
喰鮫は、そう呟きました。




「元は、って事は」
「そう。今は人間として暮らして居ります」
「そんな事――出来るのかよ」
「出来ますよ。見えるのですからね。見た目だって人と何等変りはしませんし」





ただし、と喰鮫は繋ぎます。





「捨てる覚悟が、有ればなのですが」






一瞬だけ――蝙蝠は混乱して。
次の瞬間に、ゆっくりと問いました。










「お前、山は?」
「捨てました。今は跡形も無いでしょうね」