3.



理解できない。
それが常日頃から、周りに抱いていた感情だった。




何が、というわけではない。


何もかもが理解できない。
その理解できないものに、適当に笑って馴染ませている自らも理解が出来なかった。




どうして人を嘲って笑えるのだろう。
どうして生物を傷つけて喜ぶのだろう。

人を傷つける事はそんなに楽しいことなのだろうか。
何かを傷つける事は、そんなに可笑しいことなのだろうか。









「………………」










修行の合間に、理解できない仲間達から離れるように――里を歩いて。
怪我をしている小鳥を見つけた。











隠さなければ。










咄嗟に思う。



見つけたら、皆はこれをまた、甚振るだろう。
実に楽しそうに――罪悪感もなく。










「……どうしよう」











でも――何処に隠せばいいというのか。





自分の家は、駄目だ。
遠慮の無い仲間たちがすぐに見つけてしまう。

見つけてあたしを笑うのだ。笑って、これを苛めるのだろう。
手に取るように分かる、その嘲笑と言葉。











『――将来は人を殺すんだ。その前に鳥を殺して何が悪い』












正論のようでもある。
でも自分には、理解できなかった。






「…………っ!」








がさ、と音をがして、慌てて身に小鳥を隠すと。





見覚えの無い、少年が立っていた。
小柄な少年だった。








「……あんた」
「………………」






彼は喋らない。
ただ、あたしの手の辺りをじい、と見つめてから――







「来いよ」
「…………は?」
「手当て、するんだろ」









* * *














「……ここ、蝶々さまの」







真庭忍軍十二頭領が一人、真庭蝶々の家。
そこに何の迷いもなく入っていく少年。

あたしが躊躇していると、怪訝な顔をされた。





「入らないのか?」
「あ、えっと」





大丈夫だろうと、納得させる。
蝶々さまは、優しい方だ。


元より――しかられるぐらいは、覚悟のことだし。





中に入ると、少年は既に包帯の類を出していた。
それを受け取り、小鳥の手当てをする。



しかし、治療をした後も、小鳥は元気が無かった。






「……どうしよう」
「ほら」









途方にくれている自分のことなど気にもせず、少年は小鳥に何かを差し出した。
どうやら、水と、食べ物のようだった。
おにぎりの米粒を、指に一粒ずつつけて小鳥に差し出す。
小鳥は、必死そうにそれを食べた。






「あんた、よくわかったわね」
「ん?」
「この子がお腹すいてるって」
「ああ……偶然」








また何処かから引っ張り出してきた布の上に小鳥を寝かせ、それを酷く同情の目で見る少年。
それを見てると、何故だか――








「……っ何で泣いてんだよ!」
「泣いてないわよっ」
「泣いてんじゃねえか!」
「泣いてないっ!」








言いはると少年は、しばし黙った。
視界はかすんで、表情は見えない。










「?」













気がつけば暖かい感触が、目の前にあって。
それに縋りつくように、あたしは泣いた。