「はい」


と差し出されたのは細長い棒にチョコレートが塗りたくられた、要するにポッキーだった。
はい、と言われてもと二人が困惑して七実を見つめれば、首を傾げられる。


「以前、チョコレートが欲しいだの何だのと言っていたでしょう。バレンタインにあれだけ貰っておいて今更私からの義理チョコが欲しいなんて馬鹿だとは思いましたけど、折角なので用意してみました」
「……それでポッキーか」
「しかも一本だけなのだが」
「二人で食べればいいじゃないですか。蟷螂さんがこっちの端、鳳凰さんがこっちの端」
「…………」
「…………」
「あ、折っては嫌ですよ、折角買ってきたのに」


二人は顔を見合わせて、嫌すぎるというお互いの認識を新たにした。


「食べないんですか? 折角買ってきたのに」


もう一度言って、七実はつまらなさそうに溜息を吐く。買ってきたならせめて二本渡せと思うところだが、その辺りにつっこませない雰囲気が彼女には確立されていた。


「……我がチョコレートの方でいいな?」
「さりげなく不味いほうを渡そうとするな鳳凰……別に構わないが」



嫌な汗が二人の頬を伝う。しかしまあ、そこは愛の力という奴だった。
鳳凰が咥えていたポッキーの反対側に、蟷螂が口をつけた瞬間。


ぴろりん、と可愛らしい音がした。



「鑢……!」
「……だって……まさか本当にやるなんて、思わなくて」



くすくすと笑いながら、携帯電話を構えた七実が言う。


「いいですよ、男同士でポッキーゲームなんて見苦しいですし」


思いっきり我侭を言ってから、七実はポッキーを二人から取り上げ、自分で食べた。
まあそれは所謂関節キスに入るのだけれど、そんな事は微塵も感じさせないように。



「チョコレートはあげれませんから、折角でしたら私を差し上げましょう」
「…………」
「…………」
「ああ、でも私の体で3Pに耐えるのには無理がありますから、その辺は自重してくださいね」



とりあえず帰りましょう、と七実は両手を差し出した。
鳳凰と蟷螂は溜息を吐いて、その手を握った。