「あー」 頭がガンガンする。 偏頭痛持ちだったのか、この女――自分は。 それとも血が出すぎたの、か? 記憶を手繰る。 傷を抉るために、記憶を手繰る。 『私は、なるべく、攻撃を受けないようにしないと』 ああそうだいつもやけにあんた臆病だったわね、どうして? 『もしものときは、狂犬さまに体を乗っ取って、逃げてもらわないと』 そっかそっか、そうよね、あんた初めからその気だったのよね、さっきそう言ってたものね。 もしかしたらあたしが何時だって無鉄砲に戦えたの、いざとなればあんたと変わればいいって思ってたからかもね、嗚呼、嫌な女。 でもそんな事して、あたしが喜ぶとでも思ってるんならあんたも大概嫌な女、よ? なんて。 そんな勘繰りする自分、それが一番嫌な女。 「あっ」 違う組の、顔は知っているもの名前は知らない男が明るく顔を上げる。 希望に満ち溢れた瞳が、瞬時に体中の刺青を辿った。 「あ――」 「狂犬よ」 「きょ、けん、さま」 ああ、そいつ死んじゃったんっすね、と青年は言った。 泣きそうな顔で、明るく言った。 「死んだわ。あたしが殺した」 そんな顔しないでよ、責めるんなら男らしく責めなさいよ、そんな、そんな無理に自分を納得させるような目をしないで、ちゃんと全身全霊であたしに怒ってみなさいよ。 「弱い、体だわ――すぐ、変えるんじゃないかしら」 「あ、は――すんません、狂犬さま」 「何?」 「俺、そいつに、任務行く前、告白なんか、しちゃったり、してたんです、けど」 そいつがどう思ってたかわかりますか、と青年は聞く。 怒るでもなく、泣くでもなく、ただ問うた。 「わかるわよ」 「教えて、ください」 「知ってどうすんの?」 「葬式の代わりにします」 別れの代わりという事か。 告白してきたことなど、先刻記憶を見た時にとっくに知っていた。 だから自分は、彼の前に来たのだ。 絶望を告げに。 希望を壊しに。 『嗚呼、どうせならちゃんと伝えて来ればよかったなんて今更卑怯かな、それともこれで良かったのかな――』 「この子は、あんたのこと」 『こんなこと、今更言ったって届かないけど、とっても、好きだった、よ――』 「嫌いだった、みたい」 「……そう、すか」 失恋ーと青年はおどけて言った。 「狂犬さま、さっさと体とっかえてくださいね」 「どして?」 「さっき自分で言ってたっしょ。狂犬さまがそいつみたいな弱い奴の体、使ってたら勿体無いですもん」 「逆じゃないの、それ」 「え?」 あたしなんかにこの体、使われたくないんでしょう。 そう思ったけれど言えば言うほど困らせるのがわかっていたので、何も言わずに踵を返した。 どうしてこう、うまくいかないんだろう。 そういう風に世の中って出来てるのさと、それは気の遠くなる昔に聞いた物で、誰の言った言葉か思い出せなかった。 (仲間たちは仲間への愛故に自分を死に追い込み、)(自分は仲間への愛故に生を享受する) |