静かな朝だった。
シーツのすれる音の隙間に、眠そうな声が響く。



「……鳳凰」
「…………」
「朝だ」
「わかって……いる」
「起きなくていいのか」
「おぬしも、だろう」
「わたしは今日何も無い。昨晩言ったはずだ」
「そう――だったか」
「……鳳凰」
「な……んだ」
「ぬし、また寝かけてはいないか」
「そんなことは、ない」
「ならば起きろ」
「も……少し」
「起きろ」





ちゅ、と舐めるような音がした。





「……蟷螂」
「何だ」
「目が覚めた」
「それは良かったな」
「だが」
「?」
「仕事に行く気が無くなった」
「…………」





がん。


鈍い音が響く。
例えるなら、人間の頭部を渾身の力で殴ったような。



がさり、と大きくシーツが鳴った。
そのまま、床につく足音が二人分。




「甘えるな」
「……はい」




(現実だって、そう捨てたものではない、さ)